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第参拾捌話、何某 ページ39

“異能で誤作動を起こさないように“

そのためにあった黒い手袋だ。


店長に教わりながら淹れていた珈琲。お盆に乗せて運ぶ料理。さりげなく持ってくれた荷物。街中でもすぐに気づいて手を振りながら呼んでくれた名前。

全てが優しく、心地が良かった。


けれど、素肌が露出された両手は“護る“ためでも、“親切“のためでもない。

触れずともわかってしまう。
暖かさを微塵も感じない、冷酷そのものだ。


「…こんな事、もうやめてください」


敦は異能力で押さえつけられる体を無理やり動かし、苦渋の表情を浮かべながら北原に願った。

_もう、こんなことをしてほしくない。

敦の心の中にあるのはただそれだけだ。
違法組織だとしても、多くの命を奪った罪は決して簡単には赦されないだろう。だが、時間をかけてあの日々をとり戻す事は出来る。

いつものように喫茶店で屯し、駄弁りながら昼食を取り、珈琲を嗜む。馬鹿騒ぎしながら、またゲームをするのもいい。

ババ抜きや大富豪などのカードゲーム。オセロや将棋などの盤上ゲーム。北原が苦手だといっていたデジタルゲーム。

なんでもいい。

過去となってしまった楽しい日々を、未来で_


「こんな、復讐みたいなことを…誰も望んでません。探偵社のみんな…乱歩さんだって、僕だって。そして……貴方の兄弟も」


敦は鋭い瞳を向ける。


「それに…彼らを殺したって、過去を変えることはできません。戻ることも、貴方の兄弟が帰ってくることもない」


消してしまいたくて、忘れたくて仕方ない過去は一生纏わりついてくる。その事を、敦はよく知っている。

逢いたいと手を伸ばしても、遠すぎて掴むことも抱きしめることもできない。


「現実を見てください。受け入れてください。北原さんはもう、気づいているんでしょう…?」


ゆらり、と。
北原の胸元でループタイのルビーが揺れた気がした。


「罪を、償ってください」


そう言った瞬間。

北原の顔から、表情がストンッと抜けた。否、消え去った。

深紫色の瞳に感情も光もない。


背筋に悪寒が駆け巡り、鳥肌が立つ。


「彼奴が望んでない…ね」


乱暴に前髪をかきあげ、立ち上がる。そのままゆっくりとした足取りで、室内を歩き始めた。


沈黙が肌を痛感し、心に直接刺さってくる感覚がした。
ドクドクと心臓が嫌な音を立て、脳内に響いている。


ふと、扉で北原の足が立ち止まった。


「北原さん?」

「……ふっ」

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RANA(プロフ) - ゆかりさん» 遅くなりましたが続編で来ました!続編でも読んでいただけたら幸いです。 (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - ゆめのあきさん» そう言って頂けて嬉しいです!ありがとうございます (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり - 続き待ってます (2021年7月23日 16時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです! 更新楽しみにしてます! (2021年7月15日 1時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - らむくんさん» そうなんです……シリアスをシリアスにできずに本当に申し訳ないです切腹 (2020年8月14日 1時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb  
作成日時:2020年8月2日 13時

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