第拾参話、憎悪 ページ13
談笑を交えながらの食事を終え、満腹感を味わいながらグラスに残っている酒を少しずつ飲む。
ドストエフスキーはお冷を飲んでいるのに対し、酒豪であるAは一人で三本もボトルを開けていた。
グラスに残っているのは、その三本目の最後の酒である。
「調子はどうですか」
ドストエフスキーは顔にかかりそうな黒髪を耳にかけながら訊く。口角はゆるりと上がっていて、Aの返事を待っていた。
Aがグラスに残っていた酒を一気に飲む。
グラスを置く音は部屋の空気に吸い込まれた。
「調子?調子ね……」
グラスの淵をなぞる。
側面に映るAの顔は、とても愉しそうに笑っていた。
その表情を見たドストエフスキーはくつくつと喉を鳴らした。
「そういうお前は楽しそうだな」
「ええ、勿論。楽しませてもらっていますよ。僕の選択は間違っていなかったようです。否……これも神がお導きになられた道かもしれません」
そう言いながらAを見ると、さっきとは打って変わって無表情になっていた。ドストエフスキーは「失礼」と謝り、お詫びにとAの分のお冷を用意する。
グラスの中の氷がカラカラと愉快な音を立てた。
「貴方は、神がお嫌いですか?」
Aはグラスを受け取り、水面を見つめた。
揺れる水面にはAが映っていた。
見下ろす深紫色の瞳と目が合った。
憎悪に塗りたくられ、その奥には暗闇しかない。
灯なんてものは一切なかった。
水を一気に喉に流し込む。
一つ息をついた。
グラスに残された氷は取り残されていた。Aは片方の手袋を外し、グラスの中に人差し指をさしこんで氷に触れる。
二、三周した辺りで指を戻した。
すると氷がふわりと浮かび、空気中で氷同士が密着する。
「神は存在しているかもしれない」
ビキ、と音が鳴った。
「俺を見下しているかもしれない」
亀裂が走る。
氷同士で圧をかけているからだった。
氷の屑が飛び散る。
「フョードル。もし目の前に神がいたら、俺は」
突如、静寂が訪れた。
名を呼ばれたドストエフスキーは静かに見つめている。
氷越しのAを。Aの表情を、瞳を。
「ズタズタに引き裂いて、二度と俺を見下せないようにさせるよ」
氷が砕け散った。
破片が部屋全体に散らばる。二人は沈黙を貫いた。
ただ一人。ドストエフスキーは顔を歪めた。
_嗚呼、やっぱり間違っていなかったようだ。
311人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
RANA(プロフ) - ゆかりさん» 遅くなりましたが続編で来ました!続編でも読んでいただけたら幸いです。 (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - ゆめのあきさん» そう言って頂けて嬉しいです!ありがとうございます (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり - 続き待ってます (2021年7月23日 16時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです! 更新楽しみにしてます! (2021年7月15日 1時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - らむくんさん» そうなんです……シリアスをシリアスにできずに本当に申し訳ないです切腹 (2020年8月14日 1時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2020年8月2日 13時