【文スト】参謀とは。7

温もりとは。 ページ47

途中まで送ると言ったその場所に着いた。

どこも帰宅時間だからか人通りは少ない。


『ありがとうございました』

「いいえ。怪我した時は言いな、アンタは治してやるよ」

『ハハ、遠慮しときます』


あまりにも怪しげな笑みに冷や汗が流れた。

私自身、治療中の記憶は無いが何故が体が震えた。
怖。


『けど、この御礼は必ずします』

「楽しみに待ってるよ」


お互い別れを告げ、反対方向に歩き出した。


夕日はさっきよりも傾いて、オレンジ色の下には紫色が淡く滲んでいる。


そういえば私、病院抜け出したこと誰にも言ってないんだよね。
うーん…どうしよう。

今から戻ったとしても怪我は完治してるから意味が無い。誤魔化せない。
それに今日は恐らくこっちもあの人の快癒祝いをするんじゃないだろうか。


まだ、あの人に謝ってない。
饅頭茶漬けも用意できていない。

今から買って作って、招宴(パーティ)には参加しないで執務室で待とうか。

でも無事であることは一応皆に伝えないと…


「Aちゃん」


ピタリ、と足が止まった。
考えていた事が、一気に頭の中から消えた。

何か言うことがある筈なのにそれは口から出ることはない。


気づいたらリンタロウさんは目の前にいて、私を抱き締めた。


「善かった…」


酷く弱々しく、けれど酷く安心した声。

抱きしめる力はとても強く、けれどとても優しくて懐かしい。


2日しか経っていないのにそれよりも長く会っていないように感じだ。


『…らしくないね』

「そういう君も、珍しく素直じゃないか」


私もリンタロウさんの背中に手を回した。
確かに私らしくない。


『偶に素直になる私も善いでしょ？』

「そうだねえ…Aちゃんも、偶にはこういう私も善いだろう？」

『……悪くない』

「あ、今のは素直じゃない」


クスリと笑われようがどうでもいい。

何方ともなく体を離し、歩き出す。


「さて、招宴(パーティ)の準備をしなければね」

『今から間に合うのこれ』

「主役は遅れて登場と言うだろう」

『まぁそうだけど…服の感性(センス)は任せても？』

「任せ給え」


こうして私がらしくないことをするのも言うのも、今の私がいるのもリンタロウさんがいるから。

私の中心はいつだってリンタロウさんなのだ。





"この命が尽きるまで、私は彼の駒でありポートマフィアであり娘"





この言葉は消えることはなく、今も私の中で燃え続ける。

安心とは。→←徳永のイラスト23※追加

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す