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「映画か。鑑賞するのはとても久しぶりだな。最後に見たのがいつか思い出せないくらいには見ていない」
「私も最近全然見てなかったんだけど、予告映像見ちゃったらなんだか見たくなっちゃって」
まっすぐ背筋を伸ばして座る理鶯の隣に座って私はテレビのリモコンの再生ボタンを押した。
皿洗い、掃除に洗濯と一通りの家事を済ませてもまだ時計の短針は11に届いていなかった。会社に出勤するのに十分間に合う時間に起きていたので、二人で分担して家事を行うと思った以上に早く終わってしまいこんな中途半端な時間に手持ち無沙汰になってしまったのだった。
――何をしようか、考えたとき私は昨日借りてきたレンタルビデオの存在を思い出したのだった。元々今週末に見ようと借りてきた物で一時間半強と今の時間を潰すのにうってつけだと思ったのだった。一人で見るより二人。一緒に見ない?と理鶯に声をかけてみると喜んで承諾してくれた。
画面には黄色いふわふわのくまのぬいぐるみが主人公の男性と会話しているシーンが流れている。周りにはピンク色の小さなこぶたのぬいぐるみとオレンジと黒の縞模様のトラのぬいぐるみが嬉しそうに飛び跳ねている。再開を喜んでいるようだ。
ぬいぐるみとはいえたくさんの動物が映っている画面を眺め、私はふと思った。こんな癒されるシーンで物騒なことは普通の人なら考えないだろうが、私の隣に座る彼は普通ではない。また、筋金入りの料理人である。良い意味でも悪い意味でもその腕は一流で、私は食べたことがないが、理鶯がたびたびMTCのメンバーにとんでもないものを振る舞っていることは知っている。もっとも本人は、今日はオオコウモリのスープを左馬刻と銃兎に振る舞ったら完食してくれた、と喜んではいるが。
私は画面から目を離し、理鶯の顔を見た。画面を見つめるその目は完全に料理人サバイバーの目をしていた。
「・・・・・・理鶯、この子たちが本物だったら調理できるのになぁとか考えちゃダメだよ」
「・・・・・・・・・小官は何も言っていないぞ」
「目は口ほどにものを言うんだよ」
「・・・・・・・・・尽力する」
真面目な顔で言う理鶯がおかしくて私はふふっと小さな笑みを零した。そして理鶯の固く握られた拳に手を重ね、その肩により掛かるよう体重を預けると理鶯の体から力が抜けたのを感じた。
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Loco - ありがとうございます!幸せ〜 (2021年7月8日 18時) (レス) id: 2cf4de4ba9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:吟鳶樹祈 | 作成日時:2019年1月27日 0時