隣人の想定内 ページ9
.
日曜は大した用事もなかったので、大人の力で大人買いした少女漫画を読み漁った。幼馴染モノの。どれも、これも、幼馴染たちは確かに長年傍に居続けた弊害に頭を悩ませていたが、それでもトントンのように付き合うことを頑なに拒むような男はいなかった。女も然り。
トントンが一体どんな気持ちで私の告白を鼻で笑っているのか。それを知りたかったのに、ただ、純粋に恋をして、幸せを勝ち取ろうとする主人公たちに私のすっかり草臥れた心がドスドスと殴られただけであった。
好きで、好きで、思いの丈を吐き出さなければ涙が零れるほどに苦しくなる。そんな、甘苦い恋なんて。読めば読むほど私とトントンには似合わないな、なんて沈む一方だった。
｢OK,グールグル。幼馴染と恋する方法｣
｢まずは目前の仕事を片付けろ。話はそれからだ｣
｢ポンコツやな、このAI｣
｢ポンコツはお前だ能天気女。そんなに残業が好きか｣
｢残業と比べるならまだトントンの方が好きかなぁ｣
なんだその顔は。すっかり橙の夕焼けが差したオフィスで、呆れたような馬鹿にするような、なんとも言えない表情で私を見るこの同僚、グルッペンはたいそう残業がお嫌いらしい。
｢なんで俺がお前の後始末を手伝わなきゃならん……｣
｢隣人同士手を取り合っていこうよ。ほら、がんばれがんばれグルーッペン！｣
｢頼む俺から一番離れたデスクに引っ越してくれないか｣
｢人を疫病神みたいに｣
｢その通りだろ｣
そんな訳ないだろ。じゃんけんで負けたら残りの仕事を手伝うと約束したのは紛れもないグルッペンだというのに。
二人きりのオフィスで、くだらない冗談じみた応酬で殴り合いながらもお互いパソコンを叩く手は止まらない。嫌嫌と言いつつこうして真面目に向き合ってくれるこの同僚を、私はなかなか好いていた。
｢……で？トントンと何かあったのか｣
｢え、聞いてくれる？聞くも語るも悲しい私史上最悪の物語を｣
｢振られたか｣
｢そうそ、……は？｣
｢そろそろお前の手があいつに伸びる頃だと思っていた。しかし、くく、案の定の結果か｣
思わず手を止める。目を丸くしグルッペンの方を見遣れば、彼は腹が立つほどに端正な顔で、面白おかしそうに笑っていた。
｢……ちょっと、それどういうこと？｣
｢どうもこうもない｣
｢ねえちょっとおいコラ、グルッペンさん？｣
｢黙って仕事をしろ｣
｢そっちが聞いてきたんじゃん！？｣
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
