せーので敗北宣言 ページ47
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真っ暗な中でちかちか光る赤瞳が柔く細まるのを見下ろしながら息を飲む。何だか、緊張しちゃう。前は簡単に言えていた気持ちが本物だと知った途端に貴重なものに思えてするりと吐き出せそうになかった。
「じゃあ、いくよ」
「ん」
「……せーの!」
好き。トントンのことが、大好き。
私は確かにそう言おうとした。けれど言おうとしたその瞬間にどうしてか私の下にいた彼が少し身体を浮かせてキスなんて、したせいで。敗北宣言は彼の口にすっかり飲み込まれてしまった。
触れ合った唇の熱さに目を見開く。あんなにせがんだキスが、こんなにドキドキするものだなんて、知らなかったんだ。
ただ重なり合っただけのキスはすぐに熱を手放して、それから彼は肩をぐっと掴み私の身体を布団の上へと転がした。立場が逆転、今度はトントンが私の上に被さって小さく笑う。
「好きや、A。……やっと言えた」
先に言われてしまってはくはく、空いた口が塞がらない。一緒に負けを認めるはずがどうして、なんて上手く回らない頭で考えているうち彼が言葉を続けた。
「お前の方が一敗多いやろ。せやから、これで本当に引き分けや」
「……ば、ばか、まって、どきどきしちゃってもう勝負どころじゃない」
「んは、可愛ええ顔しとるのがよう見える」
「へ、変なこといわないでよ…!」
ずっと欲しかった言葉を貰えたのに、出鼻をくじかれてしまって余計に緊張してしまった。ぐるぐる、目が回りそうなくらい、熱い。これじゃあ全っ然勝った気がしない。
「ほら、お前の番やで」
そう言って頬を撫でる指も熱くって堪らない。優しすぎる声が急かすから、吐き出そうとする言葉が震えてしまった。
「……っす、…す、き。トントンのこと、すき」
絞り出した声はずっと小さく、情けない。けれど言葉にして認めた途端に少しだけ心が軽くなって、二度目ははっきりと「好き」と伝えた。私を見下ろしていた赤瞳がするする、視線を外す。そうして少しずつ暗がりでも分かるくらいに顔を赤くさせていく彼を見てようやく勝った気になれた。
「ね、すきだよ」
「……おん、知っとる」
「だいすき。もうただの幼馴染、じゃないね」
「っ、…はあ。お前、俺がその言葉をどれだけ待っとったのか分かっとんのか、ばかA」
「ンぅ、」
二度目のキスは本物の気持ちを認めあって。馬鹿なふたりはこの瞬間だけは負けを悔しくなんて思わなかった。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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