恋して近道 ページ32
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「ね、ほらおねがい!あとで高いアイス買ってあげるから!」
「絶っ対に嫌や!というか何を考えとんねんお前は!?」
「お、ね、が、い!」
その日の夜、私は玄関先でトントンと取っ組みあっていた。嫌な顔をしつつも玄関扉を開いてくれた彼に対面三秒で掴みかかり、はっ倒し、馬乗りになり。今は互いにギリギリと両手を掴みあって攻防戦を繰り広げているところだ。
「は、な、れ、ろ!」
「せめて!せめてほっぺたに!」
「意味がわから、んッ!」
「い゛っ、!?」
ゴチン! と、トントンの硬い額が私の額に勢いよくぶつかる。強烈な頭突きによって鈍い痛みが走ってじわり、目尻に涙が浮かんだ。
「〜〜〜っケチ!いいじゃんキスのひとつくらい……!」
「いいわけあるか!?前にも言ったやろ、それは嫌やって」
「……ほっぺたも?」
「嫌や」
「キレそう…………」
「俺は既にキレとる」
キスしてくれ、そんな簡単なお願いをトントンにした。本当に簡単なお願いだと思う。未遂に終わった前と違って、彼の方からしてほしかったんだ。しかしこんな結果である。
「……そもそも、なんや急に」
「いや、ね。トントンがキスしてくれたら私、君に恋しちゃう気がして」
「は?」
「私がトントンのこと好きになったら君も私のこと好きになってくれるんでしょ?だから試してみようかと」
未だ私の下に転がるトントンが馬鹿を見るような目で私を見上げる。分かってる、馬鹿なことを言ってるってことくらい。
でも、だって、さっき鬱が私の頬にキスをした時。君のことを考えたらちょっとだけドキドキしたんだ。恋って、ドキドキするものでしょう?
「だめ?」
「……だめ。ほら、はよ退いて」
やっぱりだめか。
この方法は流石に難易度が鬼だったらしい。
痛む額をさすり、文句ありげにべえっと舌を見せてやってから立ち上がろうと両足に力を入れる。頑固で融通のきかないこんな幼馴染に恋するなんてやっぱり無理。
「もっと別の方法考えよっと」
「……A」
「うん?なに、」
立ち上がる直前。上体を起こした彼の片手が私の後頭部に回った。は、なんて間抜けな声が漏れた時。不意にぐっと頭を引き寄せられ、そうしてじくじく、痛む額に何かが触れる。
「え、いま、」
「……したけど、どうなん」
「ど、どうって」
「恋、したんか」
不服そうな赤瞳がすぐそこにある。
キス、された。
そう理解した途端に顔が焼かれたように熱くなった。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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