もう二度と失くさないから ページ25
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気が付けば、雪の上に立っていた。
崩れ落ちた門、俺の愛剣、二枚の認識票、Aの剣。それらを眺めながら、ふと小さな変化に気がついた。
「…Aの、名前」
認識票を拾いあげれば、そこには無かった筈の彼女のフルネームが刻まれていた。
『おかえり、トントン』
「っ、！」
ふいに背後から聞こえた声にはっと息を飲み、そして勢いよく振り返った。
さらりと揺れる銀の長い髪に、黒の軍服。探し続けた、記憶の中の彼女と同じその姿。
茜の空と、真っ白な雪を背景にAがにこりと微笑んでいた。
無意識のうちに足は走り出していて、そして飛びつくように彼女を腕の中に閉じ込めた。
幻ではなく、確かに触れられる。温もりは無くとも、夢だと分かっていても、もう一度Aを抱きしめられたことが嬉しくて、情けなく何度も何度も彼女の名前を呼んで子供のように泣き喚いた。
そんな俺にAは仕方なさそうに笑って、そしてぎゅっと抱きしめ返してくれる。
『トントン、』
「ごめんな、此処で、ずっと待っとってくれたんやな」
『でも、ほら。迎えに来てくれた。…ありがと、トントン』
こんな雪ばかりの世界に残されて、きっと寂しかっただろう。泣いていたかもしれない、震えて縮こまっていたかもしれない。そんな君を忘れていた自分が、本当に許せなかった。
『ね、私はずっと傍にいるよ。だから、もう泣かないで』
「…っ、おん、俺も、もう二度と忘れたりせえへんから」
『…ふふ。ありがと、トントン』
「ずっと、愛しとる」
『私も、愛してるよ。また会える日まで、この気持ちを大切に持っておくから』
あの子たちのように。
そう言って微笑んだAの頬に手を滑らせ、約束だと言うようにキスをする。これが最後にはならないと、信じて。
一瞬だけ触れた唇は冷たくて、だけど確かに感触を残していった。
そして、俺の大好きだった花の咲くような、めいいっぱいの笑顔を浮かべたAがふわりと光に溶け、腕の中から消えていく。その光は彼女だけではなく、この夢の世界全てを飲み込み、目の眩むような白に包まれぎゅっと目を瞑った。
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夜狐 - んもう好き……() (2021年7月3日 14時) (
レス) id: 587d00a7a2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - すみれいんさん» すみれいんさん、まさかの周回ありがとうございます…！完結から日の経った今でもこの作品を読んでいただけていることが心の底から嬉しいです…！；；；； (2020年12月27日 1時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - 再び読みにきてもう、やっぱり好きです (2020年12月20日 20時) (レス) id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 宙さん» 宙さん、コメントありがとうございます〜！タイトルの意まで気づいていただけでとっても嬉しいです；；；；最後までありがとうございました！ (2020年9月2日 21時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 神作。なんて素敵な終わり方なんだあ！題名の意味3か4シリーズぐらいでもしかしてって思ったけど感動したーー！なんて素敵な作品なんだ！！ (2020年8月27日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
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