炭酸の逆襲 ページ5
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｢兄ちゃん、買ってきたで｣
急ぐ気になれず、のそのそとペダルを漕いで家に辿り着いた頃には二十三時となっていた。何処か意気消沈しているトントンを玄関先で出迎えた兄は｢遅かったな｣と心配を声に滲ませる。
｢ちょっと友達と話し込んでもうて｣
｢ああ、そうなん？｣
｢ほら、荷物リビングに持ってってや。因みに小遣いは使い切った｣
｢そんなん使わんと、自分の財布に閉まっときゃええのに。父さんと母さんの分もあるやん｣
｢……確かに｣
使い切ったのは、こんな時間に外へ放り出した兄に対してほんの少しの反抗を見せるためだったのだが、トントンの兄は寛容であった。寧ろ駄賃にしてよかったのに、と笑う兄へ少々悔しく思いながらトントンはビニール袋を｢ん｣と押し付ける。―――その瞬間。トントンの指先が僅かに、袋を攫った兄の手の甲に触れた。
(―――あれ、こいつまた身長伸びとんな。卒業する頃には抜かれるんちゃうか)
｢そう？兄ちゃんが縮んどるんやない？｣
｢え？｣
｢……なに？｣
ぱちり、トントンと同じ赤瞳が瞬いた。兄は不思議そうに首を傾げ、それからすぐにニッと口角を上げてトントンの髪を掻き乱すように撫でる。
｢ふは、俺、悔しさのあまり声に出とったか。屯には絶対抜かれない自信あってんけどなぁ……って、おい。俺はまだ縮む歳やないぞ｣
｢はいはい、撫でるな。それよりはよ食わんとアイス溶けんで｣
｢ちゃんと俺の好きなもん買ってきたか？｣
｢買ってきたで、小豆バー｣
｢俺のいっちゃん嫌いなやつやんか。分かっとんな｣
トントンは鬱陶しそうに兄の手を振り払い、靴を脱ぎ捨てリビングへと向かう。その後ろを追った兄はガシャガシャとビニール袋を鳴らしながらもう一度首を傾げていた。
(いや、言ってへんよな？あれ？俺……まさかもう呆けが始まって……)
齢二十五にして己の老化を疑る兄に気づくことなくソファーに身を投げたトントンは一時間ぶりの冷たい風に｢ううん、｣と唸る。そうして何故か茫然と頭に浮かんだ横断歩道とAの絵に｢何しとったんやろ｣と零した。
あの時、一歩を踏み出してしまった彼女に対して｢ぼんやりしていて、赤信号と青信号を見間違えただけ｣と、トントンはそう結論づけていた。あるある、そういう時。暑いし尚更。そう、こじつけのように。
プシュッと傍で炭酸が弾ける音と、兄の劈く叫び声が上がった。思考が掻き消される。ああ、そういえばすっかり忘れていた。
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餅宮(プロフ) - なるほど、そうですか！こっちの方が味があって好きです(突然の告白)そんな伏線教えてもらえて少し動揺しています(震)これからも更新楽しみにしています！ (2020年7月7日 12時) (
レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 餅宮さん» 餅宮さん初めまして！歌はわざとですが理由が著作権にありまして、正直これもアウト寄りかと思いますので修正いたしました…。エモな理由ではありませんでしたが実は音痴であることを伏線としていますのでそれを知った上で今後も楽しんでいただけたら幸いでございます！ (2020年7月6日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
餅宮(プロフ) - 更新お疲れ様です！いつも楽しみにしています。初コメがこんなので申し訳ないのですが歌詞の部分は「この大空に翼をひろげ」ではないでしょうか？わざとでしたらすいません。そうでしたらすごくエモいのですが() (2020年7月6日 15時) (レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
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