泣いた炭酸 ページ4
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ふらり、とその場でよろけた二人を駆け抜ける無数の車が眺めて去っていく。菜月Aは突然腕を引かれたのにも関わらず一切の驚きの声を上げなかった。しかし振り返り、空色の双眼に狼狽を滲ませるトントンの姿を映した時には、その空を瞬かせた。
(―――また、失敗した)
｢え、？｣
菜月Aはじっと背の高いトントンを見上げたまま口を開かなかった。だというのに、トントンの耳には彼女の声が確かに届いていた。己の視覚と聴覚が生んだ違和感へ首を傾げさせる。
｢……離して｣
今度こそ彼女の声と口の動きが一致した。しかしその声は嫌に刺々しさを感じさせ、真夏の暑い空気を凍てつかせる。クラスで見掛ける彼女はいつだって笑っていて、こんな風に鋭く睨むような顔を見るのは初めてだった。
トントンは途端に萎縮し慌てて手を離した。｢すまん｣と小さく零し、いや俺は助けた側やろ、と掴むもののなくなった手のひらをぎゅっと結ぶ。
｢あ、危ないやろ。赤信号やで｣
若干震えを乗せた声で、それでも言ってやった。しかし視線は落とした。目についたのは力なく降ろされた彼女の両手の先、今朝見た真っ赤な長い爪だ。右手人差し指の赤が欠けている。
｢……あれ、トントンくんだ。偶然だね。こんな時間に何してるの？って、あの自転車、君の？大変！中身全部出ちゃってる｣
｢え、あ、｣
菜月Aはぱちり、とひとつ空を瞬かせ。それからさっきの冷たさなどなかったかのようにあっけらかんと笑い、捲し立てるように口を動かした。倒れた自転車へと駆け寄る彼女の背中をトントンは茫然と見つめる。何だか、無理やり口角を上げているような気がしてならなかった。
｢あちゃぁ。この炭酸、きっと開けたら大惨事だよ｣
｢……そう、やな。すまん、ありがとう菜月さん｣
｢えー、トントンくんって私のこと菜月さん、なんて呼ぶの？｣
｢え、そんな話したことないし、｣
｢Aでいいよ。隣の席同士なんだし、ね？｣
｢……わ、分かった｣
菜月―――Aがひとりで掻き集めてしまったビニール袋を受け取ったトントンは、同時に押し付けられた呼び名に困惑しつつもゆっくり首を縦に振る。それに満足そうに笑ったAが｢じゃあ、またあした｣と言って、渡ろうとしていたはずの横断歩道に背を向けた。
意味分からん。まるで、夏の嵐やな。
取り残されたトントンが自転車のペダルを踏んだのは、信号機が青、赤、青と変わってからだった。
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餅宮(プロフ) - なるほど、そうですか！こっちの方が味があって好きです(突然の告白)そんな伏線教えてもらえて少し動揺しています(震)これからも更新楽しみにしています！ (2020年7月7日 12時) (
レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 餅宮さん» 餅宮さん初めまして！歌はわざとですが理由が著作権にありまして、正直これもアウト寄りかと思いますので修正いたしました…。エモな理由ではありませんでしたが実は音痴であることを伏線としていますのでそれを知った上で今後も楽しんでいただけたら幸いでございます！ (2020年7月6日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
餅宮(プロフ) - 更新お疲れ様です！いつも楽しみにしています。初コメがこんなので申し訳ないのですが歌詞の部分は「この大空に翼をひろげ」ではないでしょうか？わざとでしたらすいません。そうでしたらすごくエモいのですが() (2020年7月6日 15時) (レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
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