青い夏の夕 ページ15
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冗談めかした声色の裏にあるもうひとつの声は泣いているように聞こえた。静かな心の哭声を拾う人間がいるとも知らず、Aはトントンの腕の中でにっこりと口元に笑みを湛える。
｢あはは。そんな馬鹿じゃないよわたし、｣
｢Aさん｣
｢うん？って、Aでいいってば｣
｢……A。その、｣
間違いなく、止めなくては冗談なんかでは済まされなかった。何であんなことを、と聞いてやるべきかどうかトントンは頭を悩ませている。聞いたところではぐらかされているのは目に見えていた。それに、彼女の心にズカズカと足を踏み入れてもいいものか、と。
｢……歌、下手くそやな｣
結局聞きたかったことは喉元で飲み込み、どうでもいいことを口走った。Aの顔色を伺うためにそっと彼女の頭を抱いていた右腕を緩める。
Aは顔を上げた。そうしてきょとん、と空色を瞬かせ、いっぱいに眉を下げるトントンの情けない表情をその瞳に映し込む。
｢……っふ、ふふ、｣
｢な、なんで笑うねん。笑いたいのはこっちや｣
｢いやだって、そこ？｣
｢……聞きたいことなら、他にあんねんけど｣
｢私の趣味とか？｣
｢それは別に｣
｢ゲームかなぁ。RPGが好き。格ゲーも好きだよ｣
｢えっ、意外やな｣
｢そうでしょ｣
暑いと言ったくせして、からからと笑いながら自ら額を胸元に寄せてきたAにトントンは僅かに肩を跳ね上げさせる。今更この距離感に気恥しさを覚え、左腕の力も緩んだ。しかしAは退く素振りを見せず、ただトントンの耳に笑い声を聞かせる。
｢ふふ。にしても、やっぱり下手くそだったかぁ｣
｢や、その……すまん。思わず素直に言ってもうた｣
｢いいの。……下手くそがいいの｣
｢……どういう意味？｣
｢そのままの意味｣
いや分からん、と首を傾げたトントンはそこでふと、とあることに気がついた。Aはまだ自分の腕の中にいるというのにすっかりその声が聞こえなくなっていたのだ。聞けていたら、きっとその意味を知れただろうに。
Aがようやくトントンの腕から抜け出した。そうして、まだ青い空を背景にやはり眩しすぎる笑みを浮かべる。
｢ねえ。一緒に帰ろ、トントンくん｣
そう言ってAは転がったままのトントンに片手を差し出した。短い夏の夜は、まだまだ来そうにない。
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終わり
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餅宮(プロフ) - なるほど、そうですか！こっちの方が味があって好きです(突然の告白)そんな伏線教えてもらえて少し動揺しています(震)これからも更新楽しみにしています！ (2020年7月7日 12時) (
レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 餅宮さん» 餅宮さん初めまして！歌はわざとですが理由が著作権にありまして、正直これもアウト寄りかと思いますので修正いたしました…。エモな理由ではありませんでしたが実は音痴であることを伏線としていますのでそれを知った上で今後も楽しんでいただけたら幸いでございます！ (2020年7月6日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
餅宮(プロフ) - 更新お疲れ様です！いつも楽しみにしています。初コメがこんなので申し訳ないのですが歌詞の部分は「この大空に翼をひろげ」ではないでしょうか？わざとでしたらすいません。そうでしたらすごくエモいのですが() (2020年7月6日 15時) (レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
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