夏空に馳せ ページ13
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｢あの青空にぃ、はねをぉ、ひろげぇ……｣
屋上を囲う、それ程高さのないフェンスに腰掛け、ゆらゆら、ゆらゆら。地に着かない足を揺らすAの姿があった。
そして耳に飛び込んだのは、確かつい最近昼休みの校内放送で流されていた歌だったような。あまり聞き馴染みがなくとも、それがおかしいほどに音を外し、世辞も言えぬ酷い歌だということは理解できる。
｢……あは。上手じゃん、わたし｣
蝉も遠慮したのか、心なしか静かな屋上で。拍子も音程も滅茶苦茶なその歌を仄かに茜のかかる空へ聞かせるAの姿はあまりに異様だった。加えてあんな、不安定なフェンスの上で。丸まった背中は押してくれと言わんばかりに無防備だった。強い風が吹きつけるだけでもきっと、彼女は翼もないのに空を飛んでしまう。
トントンは半開きの扉の前で声をかけることに躊躇していた。まさかこのまま落ちる、なんてことはないだろう。あんな下手くそな歌が遺言だなんてあんまりだ。それに、彼女は毎日楽しそうに笑っていた。だから、だから、理由などない、と。
｢……お空はほんとうに、自由かな｣
零れ落ちたAの独り言はトントンの耳がしっかりと拾った。そうして、下校中の生徒たちでひしめき合う校庭を見下ろす彼女の横顔に、呼吸を止める。
あの日。赤信号を渡ろうとしたAの腕を引いた日。ほんの一瞬見た彼女の鋭い瞳を思い出した。同じ瞳だった。今、遠い地表を見つめる彼女の、瞳が。
Aは笑っていなかった。それがどうしようもなくトントンの胸中に燻る不安を煽る。
｢ま、いっかぁ｣
今度は気の抜けた声を夏の空に響かせた。そうしてAは笑った。笑ったのに、トントンには笑っているように見えなかった。寧ろ泣いているようにさえ思えた。
―――あ。
トントンはいっぱいに目を見開いた。その赤瞳に映し込むのはやけに晴れ晴れとした空と、ぱっと、フェンスから両手を離し、浮かぶ雲へその腕を伸ばした彼女の揺れる薄金。
もう、何も考えちゃいなかった。
普段より重みを増しているように感じる鉄扉を思い切り蹴り開ける。さっきまで静かだったはずが途端に喧しく鳴き始めた蝉の声を聞きながら、トントンは無我夢中でその薄金に手を伸ばした。
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餅宮(プロフ) - なるほど、そうですか！こっちの方が味があって好きです(突然の告白)そんな伏線教えてもらえて少し動揺しています(震)これからも更新楽しみにしています！ (2020年7月7日 12時) (
レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 餅宮さん» 餅宮さん初めまして！歌はわざとですが理由が著作権にありまして、正直これもアウト寄りかと思いますので修正いたしました…。エモな理由ではありませんでしたが実は音痴であることを伏線としていますのでそれを知った上で今後も楽しんでいただけたら幸いでございます！ (2020年7月6日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
餅宮(プロフ) - 更新お疲れ様です！いつも楽しみにしています。初コメがこんなので申し訳ないのですが歌詞の部分は「この大空に翼をひろげ」ではないでしょうか？わざとでしたらすいません。そうでしたらすごくエモいのですが() (2020年7月6日 15時) (レス) id: 183ec0d7a1 (このIDを非表示/違反報告)
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