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liqueur:5 ページ6

まだ馴染まない道。思考を巡らせながら家にたどり着くと散らかった部屋が待っていた。


ああ、そうだ。部屋を綺麗にしなきゃ。お風呂に入りたい。洗濯もしなきゃ。せめてベッドだけでも寝られるようにしなくちゃ。


「…だめだ」


ダメだダメだ、ダメだ。何も手に付かない。

やらなきゃいけないことはたくさんあると頭ではわかっているのに。どうにも動くことが出来ない。


「降谷…」


彼を見て浮かんだ名前。


じっくり考えて出てきたのではなく反射的に脳が弾き出した名前だからこそ自信はなかった。人違いでも納得できた。

でも彼は私の名前を知っていた。



ベッドに寄り掛かり三角座りをした膝に顔を埋める。


無音の空間に飲み込まれそうだとわかっていてもテレビをつける気力がない。

気分も、思考も、体ごとゆっくり沈んでいくような感覚。


久しぶりに陥ったこの感覚をまずいと思っていると案の定あいつの顔が浮かんできた。


「…っはー」


ジリっと熱くなった喉を誤魔化すようにため息を吐き出して視線を天井に向けたとき


「………あ!!!!!」


一瞬で彼を思い出した。

今とさほど変わらない昔の彼の顔。でもどこか記憶の中の彼は今日の彼と感じが違う。


そうだ。そうだ!彼だ!思い出した!降谷くんだ!


なぜ今まで思い出せなかったのか不思議なくらい鮮明に思い出した。


でも、だから何なんだ。思い出したところで何もない。仲が良かったわけでもましてや友人と呼べる間柄でもなかった。


思い出したことで晴れた思考もその先に何もない真っ暗闇だと気づき再び顔は膝に埋まる。

また、落ちていく。沈んでいく。

朝からずっと動きっぱなしだった。お腹は満たされている。疲れた。なんだか眠い。お風呂は起きたらすぐ入ればいいや。



『よかったらまた来てください』

『ケーキ好きでしたよね』

『待ってますね』



安室と呼ばれていた彼は確かそう言っていた気がする。

まあ社交辞令とかね。お店側からしたら特に意味なんてないだろうけど。


もしかしたら思い出に浸れるかもしれない。

私の知らないあいつを彼は知っているかもしれない。


またポアロに行ってみようかな。


眠くなかったらきっとすぐに否定した思い付き。でももう眠い。眠いからどうでもいい。

そうしてゆっくりと意識は落ちていった。

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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時

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