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「私は……」
わからない。
わからない。
自分のことなのに。どうして。
「…わかりません」
震えた声。それとたぶんお酒のせい。誘発されるように自然と涙がぽろぽろ零れ落ちてきて、
あ、私泣いてる。
まるで他人事のように冷静な部分でそう思った。
そしてそれとは裏腹に無意識に口が動く。
「忘れたくないのにっ、時間が経つにつれてどんどん…研二のこと忘れていくのが、怖かった…」
堰を切ったように流れる涙は声にも滲んで、止めることができなかった。
いい歳した大人が公共の場で。人前でみっともない。
そんなことを気にする余裕もないほど嗚咽交じりにとりとめのない言葉を吐き出す。
「研二が…亡くなって、私、すぐに実家に戻ったんです…。何も手に付かなくて、その様子を見た親が、戻ってきなさい…って。
それで、部屋を引き払うとき、研二の私物、全部、研二の家の方にお渡ししたんです。…遺品だし、私もそうするべきだと思った…」
相槌をする降谷くんの声が柔らかくて、心地よかった。彼は一体どんな表情で聞いているんだろう。
「それで、この機会に、研二と、お別れしようって…。いつまでも、このままじゃダメだと思って…思い出に、しようって…思い切って、全部捨てたんです…」
目に焼き付けてから、一枚一枚、写真を消した。お揃いの物を、大切に抱きしめてから、処分した。研二を思い出してしまう全部を、手放した。
それが私の考えた研二とのお別れだった。
「そうしたら前に進めるって、思ったのに…っ、研二の匂いがわからなくって、研二がどんな声で私の名前を呼んでいたのか、わからなくなって…。
表情も……本当にそうだったのか、どんどん、わからなくなって……怖かった」
「……うん」
「忘れない、消えないと思ったから、全部手放したのに。研二のこと、忘れちゃうんです。全部忘れるんじゃないかって、いっそ、全部忘れられたら楽だと思った…でも、忘れたくない…っ」
「……うん」
自分でも何を言ってるのかわからないのに。降谷くんはただ静かに相槌をくれる。
それがなんだか温かくてまた涙がじわりと溢れてくる。
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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時