モトカノ依存症【吉沢亮】 (ページ11)

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episode11 ページ11

“う…亮、亮？”

ハッと声のする方を見ると正面にはショートカットの女の子
同じ学部の子。入学式で隣の席になったことから一緒にいるようになった

『…ごめん。なんだっけ』
“もー。ホラー映画好きかって聞いてんの。”
『別に嫌いじゃないけど』

大学に入学して１０日ほどが経った
地元から８時間ほどバスに揺られて到着した東京
上京組は地元では少ないが、彼女もその中の一人だった

「彼女」

目の前でよく喋るショートカットの「彼女」ではなく

「彼女」

告白をオッケーした時に泣きそうになりながら笑みを浮かべる彼女だった

だけど彼女が今どこで何をしているのかなんて知らない
知る権利などない。
8ヶ月付き合った彼女を振ったのは俺の方なのだから

“じゃあ行こうよ。亮しかまだ友達いないわけだし”

『…いいよ。』

あんなに露骨にも好きだと言ってきた彼女との最後はあっけなかった

LINEで一言「別れよう」
その一言彼女に送ると「分かった」とだけ返信がきた

ただ何の温もりも感じないその言葉を彼女がどんな顔で打ったのかは分からない

引き止められたり理由を聞かれたりするのかと思った
あんなに好きだと言っていた彼女のことだからそうすると思っていた
だけど何もない

その1ヶ月後の卒業式に彼女を見かけた

まるで何事もなかったかのように友人と笑い合ってる彼女を見て
なんだろう
多分、負けた気になった

彼女にとって俺は結局そんなもんだったのかと思うと
勝手に傷ついて被害者面していた

・

大学に入るとなるべく誰かといるようにした
ひとりの時間を作らないように同じ学部の奴とかサークルで時間を潰した
サークルの先輩に勧められて塾講師のバイトも始めた

出来るだけ時間に追われるようにした
そうさせていた
ふとした時間すらも与えないほど、忙しそうにしていた

じゃないとどこかで現れてしまいそうな気がした

“吉沢は彼女作らないの？”

大学二年の夏休み前だったかそれぐらい
塾で担当する中学生たちは夏休みが勝負で俺もできるだけシフトを入れていた
同じ時間帯で入ってる別の大学に通う同学年だが一個年上の山田裕貴とは仲が良かった

家も近所でよく一緒に帰っていた
いつもと変わらない静かな線路沿いの道で山田から聞いてきた

山田:って、生徒の中学生たちが言ってたぞ

そう付け加えたが顔は山田も気になってそうな顔をしていた
彼女の話はこっちにきてから誰にもしたことがなかった