episode10 ページ10
覚えている
前と同じ便箋
つらつらと重ねられたその文章には俺のことが書かれていた
「好きです」
その一言が最後に添えられていた
…やっぱり手紙なんだとクスッと笑ってしまった
分かる。彼女が直接告白なんてできるわけないって
手紙なんて珍しい
メールもSNSもある世界でわざわざ手書きで告白するなんて
彼女とのLINEは俺が既読だけつけて終わっていた
だから手紙なのか?
机の引き出しにはバレンタインに貰った同じ封筒が入ってあった
重ねるように封筒を置き、溜息を一つついた
正直、後悔している
好きだと気持ちが分からないまま彼女に期待させてしまっている
振ってしまえば楽になれるのに
楽しみになってしまっていた。彼女と出会ってから
彼女は日常に潜む非現実的な存在
日常に不満があるわけでないのに彼女の存在は平凡なものではなくなっていた
傷つけたくはなかった
好きだという気持ちがはっきりしていれば彼女と向き合うことができたんだと思う
『…手紙ありがとう。』
「…」
手紙を貰って一週間ぐらい経った頃
放課後に彼女を呼び出して二人きりになれる場所に行った
人通りの殆ど無い廊下で、彼女はどこかよそよそしい雰囲気
窓を挟んで校舎の外では部活動の声が響き渡る
対照的な静まり返った廊下で自分の声が響く
『付き合おう、か。』
自分の口からそんなことを言うのは初めてだった
だからなんとなく恥ずかしくて
彼女みたいに言葉詰まりで
俯いていた彼女が顔を上げると、今にも泣きだしそうな顔をしていた
「…本当?」
こんなに顔に嬉しいと表れる人、初めて見た
俺なんかと付き合うのがそんなに嬉しいのか
あの時の彼女の表情は今でも覚えている
彼女なんて、今まで何人もいたのに
どうして彼女のことはこんなにも鮮明に覚えているんだろう
「嬉しい、本当に嬉しい」
好きなのかも分からず付き合ったのは何度目だろう
傷つけたくなくてだらだらと付き合っていたその時間が
彼女のこと傷つけていたなんて
簡単に分かることも、当時の俺は見ようともしていなかった
「自分」のことを傷つけるのが怖かったから
511人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キャラメル味(プロフ) - この作品を待っていました!楽しみです!作者さんのペースで更新頑張ってください! (2021年2月2日 20時) (レス) id: e1584a2181 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:君との時間。 | 作成日時:2021年1月31日 11時