この涙を知らない。 (ページ9)

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０９知りたくない事実。ページ9

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「･･･美味しいね」

私も同じように微笑んでみるけど
どうも彼女の前では笑顔が引き攣ってしまう

どれだけ綺麗事を並べてみたって

やっぱり心の底では、
彼女の事が憎くて仕方ないんだなって
改めて自分の心の黒さを知った。

「･･･Aさんって、柔軟剤何使ってますか？」

「え？なんで？」

「･･･凄くいい匂いだなって、落ち着くし
それに･･･、」

「それに？」

「北山さんと･･･同じ匂いがします」

「･･･。」

一瞬、言葉にするのをためらった彼女
だけどハッキリと、宏光の名前を口にしたあと、

私を試すような目で見たかと思えば
途端にその視線は泳ぎ出した。

泳いだ視線を追いかければ、
彼女は途端に俯いてしまった。

「･･･知ってたんだね。」

震える声で彼女に問いかければ

コクンと頷いたあと
顔を上げた彼女の目はまた少し潤んでいた。

彼女は私が宏光と付き合っている事を

知っていながらも
宏光に甘えていたんだと知り、
私は心底目の前にいる彼女が憎いと思った。

もう、可哀想だとは思えないほど

目の前で今にも泣き出しそうになっている彼女が
憎くて嫌いで仕方なかった。

「･･･ごめっ･･･なさい」

「どうして謝るの？」

「だって･･･」

「私に悪いと思ってたの？」

「･･･。」

「それなのに、どうして･･･まだ宏光に
頼ろうとするの？」

私の口から出た “ 宏光 ” というワードに
彼女は一瞬表情を歪ませた。

私はそんな彼女の表情を見て
何もかも、悟ってしまった。

それは、望んでもいない、知りたくもない事だった。

「･･･宏光のこと･･･好きなんだね」

「ごめっ･･･なさい」

「･･･。」

もう、宏光への気持ちを隠そうともしない
泣かないように口を結ぶ彼女が余計に私をイライラさせた。

「もしかして、仕事の相談も宏光に近づくための口実だったりするんじゃないの？」

自分が今、どれだけ意地悪かだなんて分かってる、

だけどもう、耐えられないよ

彼女の気持ちを知ってしまった以上、
もう見て見ぬふりなんてできない
宏光を、他の誰かに取られたくなんてないの。