この涙を知らない。 (ページ3)

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０３勘違いなら。ページ3

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一度堪えていた涙が流れてしまえば
彼女はその場で座り込んで泣き出してしまう。

「Aさん、私もう限界かもしれません」

「･･･何かあったの？」

私も一緒にしゃがんで、
小刻みに震える肩をそっと抱くけど、

本当は彼女が例のパワハラ上司にどんな事をされてるのか
知ってるんだ。

宏光から聞いてるから。

彼女が宏光に相談する度に、
宏光は私にアイツの事守ってやってってお願いするんだ。

それが私にとって複雑な事だって
宏光はきっと知らないんだろうけど

だけど彼女は私と宏光が付き合ってることは知らないだろうから、何も知らないかのように聞かなきゃならない

「･･･もう、転職しようかな」

「･･･。」

泣きながら口にした彼女の言葉に
残念に思うどころかホッとしてしまった。

彼女が会社を辞めれば宏光との接点がなくなる。
単純にそう思ったから

だけどすぐそんな思考に持っていってしまう自分は
もうとっくに宏光の好きな私じゃなくなってるのかもしれない

きっと、宏光が今の私の心の中を読めたら
私のことを見損なってすぐに傍から居なくなっちゃうと思う

自分の感情がどれだけ汚いかだなんて理解してる

けど、私だって辛いんだよ

宏光の口から彼女の名前が出ることが増えたり、

彼女の相談にのるから遅くなるっていう宏光からのメッセージを開く度に胸が張り裂けてしまいそうなのに。

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「なあ、さっき桐乃の目が赤かったんだけど
もしかして泣いてた？」

エレベーターでまた二人きりになった時に
宏光に聞かれた。

せっかく二人きりになれたのに、また桐乃さんの話？

今日は何が食べたいとかそういうのが聞きたかったのに。

桐乃さんの目が赤かったことにはすぐ気付くのに
私が新しい香水をつけてることには気づかないんだね

「聞いてる？」

「･･･知らない」

悔しくて腹が立って、
素っ気なく返事して先にエレベーターから降りた。

じわじわと目の奥が熱くなってきて
段々と視界が霞んでくる。

この涙を堪えそうになくて

私もトイレへ逃げ込んだ。

宏光の気持ちがいつか、
完全にあの子のものになってしまいそうで怖いんだ。

これが単なる勘違いならいいのに･･･。