この涙を知らない。 (ページ1)

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０１知りたくないこと。ページ1

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「北山さん、昨日はありがとうございました。」

可愛い笑顔で、宏光に近寄るあの子が
今日も憎くて仕方ない。

本当はこんな事思いたくないのに
思わずにはいられないほど、

あの子は私の心を抉っていく

そして、更に私の心を酷く痛めつけたのは

「またいつでも相談して」

あの子を見る宏光の優しい眼差しだった。

2人をひっそりと見つめる私の視線に
気づくことなくコーヒー片手に宏光は

自分のデスクに戻っていった。

ねえ、どうして私の方は1度も見ないの？

もっと、気にしてよ。

宏光の彼女は私なのに
これじゃあ･･･まるで･･･私が邪魔者みたいじゃんか。

突然に泣きたくなるのも、そんな涙を必死に堪えるのも
もう日常と化してしまっている。

「今日なに食う？」

エレベーターで二人きりになれば
ずるい笑顔で宏光は私に話しかけるから

もうそれだけでどうでもよくなったりする。

「お肉がいいんでしょ？」

「さすが、俺のこと分かってるじゃん」

そりゃあもう、2年も付き合ってるからね
宏光の事なら大体わかるよ･･･。

今日何が食べたい気分なのか、
今何を考えてるのか
あの子のことを本当はどう思ってるのか

知りたくないことも、知ってしまう。

2年も付き合ってるのに私たちの関係が
会社にバレてないのは、

2人とも気づかれないように徹底してるから。

だけど本当はそれが少し寂しいんだ。

だって、別に社内恋愛禁止じゃないのに
仕事がやりにくくなるかもしれないっていう
理由でずっと内緒にしてきた。

本当はあの子に宏光は私のものだって
見せつけたいのにそれもできない。

むしろ、私が見せつけられてる側かもしれない。

「じゃあ、また後でな」

エレベーターが開けば
上司の北山さんに戻って私を置いて
先に降りていった。

その背中を見て私が今どんな顔をしているのか、
宏光は知らない。

不安で不安で仕方ない私の気持ちを、
宏光はきっと、知らないんだ。

宏光はきっとまだ気づいてない
心の奥底であの子に惹かれてることを

どれだけ自分が優しい顔して
あの子を見つめているのかも

宏光はまだ、知らない。