私があなたの彼女です [赤緑]

甘い味をしたクズ ページ23

「相変わらず可愛いね、Aちゃんは」


食べたくなっちゃう、と甘く囁くそいつを突き放し後ずさる



「近寄らないで」

「何でそんな悲しいこと言うん？」


「そっちが、そっちが悪いんだから」

「…あぁ、あの時の話な？」



10年前のことを思い出すかのように
遠くの天井を眺める小瀧くん



「あれはほら、若気の至りってやつやん？」

「まだ1年も経ってないし」



「んなカリカリせんといてやぁ」


私の頭を撫でようと伸ばして来た手を払うと
寂しそうに眉を寄せ唇を突き出し困り顔



「確かにあの時の俺はクズやったで？
こんなに可愛い彼女がおったのに他の子に手ぇ出すなんて。

でもそれは気の迷いやん？」


「気の迷いはそんなに何回もないから」




「だからぁ改心したって、俺も。

隣におらんくなって気づいてん、
どれだけAちゃんが大切な存在か」




そんな言葉にまた心が揺れる


あの時もそうだった


何度バレても私を騙し二股を繰り返し

バレる度に練乳に砂糖をまぶして蜂蜜に漬けたかのような
甘い言葉を屈託なく並べられて

渋々許すとまた二股をかけられたあの時も。



いい加減しげのことは諦めようと何十回目かの誓いを立てた時に
大学受験のための塾で知り合い

数多の女の子の中からなぜか私を選んだ小瀧くんは


カッコよくて可愛らしくて優しくて男らしくて
おまけに頭もよかった


愛想を尽かした私に別れを告げられても
へこたれることなく女の子と遊びつつ

この大学に受かるほどには。




「とにかく、私にはもうその気はないから。
お気持ちだけ受け取っとく。じゃあね」


俯いたままそれだけ早口で言い残して
突き飛ばす勢いで歩き始めると




「しげくん、やっけ？」



しげの名前に思わずまた足が止まるけど
騙されるもんかとまた歩き始める




「重岡大毅くん、か」

「しげが何」


「ん？Aちゃんの今の彼氏」

「…そうだけど」




「記憶喪失なんやっけ？」



今度は流石に足を止めざるを得なかった




「お友達は亡くなって自分は記憶喪失。かわいそうになぁ」

「小瀧くんには関係ないでしょ」



「大アリやで？狙ってる子の彼氏やもん」


後ろから徐々に近づく足音



「早めにやめた方がええと思うけどなぁ、俺は」

「だから」




「お情けで付き合っても何もええことないで？」




どうせ、と私の肩に手をかけた小瀧くんは
耳元で低い声で囁いた





「記憶戻ったら捨てられるだけなんやから」





一瞬固まった私は我に返り
肩に置かれた手を振り払い走って戻った

寒いか暑いか→←履修相談と嫌な予感

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す