ベッドタイムストーリー [JW] 短編集

Orange Night ページ11

「お疲れー乾杯！」

「乾杯！」



少し遠慮がちにカチンとジョッキを鳴らすと


そんな私になんてお構いなしに口をつけ

ジョッキの中でシュワシュワいう黄色がかった液体と
きめ細かい真っ白な泡をどんどん美味しそうに吸い込んでいく目の前の彼




「ッアーッ！生き返るわぁー！
あれ？Aちゃんもしかしてビール苦手やった？」

「あ、いえ！ただ…」




ビールを一息にガブガブ飲む女の子って

照史先輩的にはどうなのかなって心配で。




「…照史先輩があんまり美味しそうにビールを飲まれるからつい見惚れちゃって笑」



これもあながち嘘ではない




「なーんやそゆことかぁー！俺よう言われんねん
照史がビールのCMやったら絶対買ってまう！って笑」

「そうなんですね！笑」


「どぉ？飲みたくなった？」

「…はい笑」


「ハハッやっぱり！？行け行け！」

「じゃあ、いただきます」




グラスに口をつけて待ちわびていたビールを喉に流し込むと
あの独特な苦味とのどごしをようやく感じられる



「あー美味ぁー！」



あ、つい癖が出ちゃった。

引かれてないかな…




「おぉー飲みっぷりええやん！俺ガッてビール飲む子見るの好きやねん笑」



そんな照史先輩の何気ない言葉に安心すると同時に

何万回目かのドキドキ。




「あ」

「…はい？」


「フフッAちゃんヒゲ出来てんで笑」

「…あぁ！」




恥ずかしくて手の甲で全力で拭うと



「あ、まだ付いてる」



先輩のクリクリの目で見つめられ
おしぼりを片手に持った先輩がどんどん近づいてきて

ポンポンっと鼻の下を拭われた



「ん、完璧！」

「あ…りがとう、ございます」


「お茶目やなぁーヒゲつける方が難しいやろ笑」

「そうですかね？笑」




するとジョッキを傾けわざわざヒゲを作ろうと挑戦する照史先輩

眉間にギュッとシワを寄せコップを咥えた唇を尖らせ何度も試す




「ん！出来とる！？」

「あっいい感じです笑」


「出来ひんてぇこんな器用なこと、それもまぐれで！」

「いやいや笑」




先輩におしぼりを渡そうとすると
ちょうど店員さんがおつまみを持ってやって来た

慌ててビールを置き小皿を受け取る照史先輩





「おおきにーどもー
あ、手ぇ離されへんからAちゃんさっきの拭いて？」


「へ？」




「ええから！」


そのまま口を突き出される



「いや、でも」

「早くー恥ずかしいて店員さんに見られるの！笑」



上半身を小刻みに揺らして催促するから
緊張しながら先輩の鼻の下を拭った

心臓が飛び出そう。

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