佐久早くんって美味しそうだよね【古森元也】

最後のひとくち ページ50

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「ただいまー」
『おかえり』

元也くんと一緒に住み始めてから、2年が経った。初めの頃のようなギクシャク感は、とっくに消えている。

私は相変わらず元也くん呼びだけど、元也くんは私のことをA、と呼ぶようになった。


それだけは未だに慣れない。呼ばれる度にドキッとして、アホみたいだな、とは思うけど。



「そういえば今日、偶然佐久早に会ったよ」
『え、偶然？それはすごいね』
「最近会えてなかったけど、全然変わってなかった」
『確かに、変わってなさそう』


元也くんの話を聞いていると、机の上に置いていたスマホが震えた。


佐久早おめでとう


ただ一言、そう書かれていた。
メッセージが来ること自体久々なのに、それでこの内容ってどういうこと？

わけがわからない。

A久しぶりだね
Aおめでとうって何の話?


瞬間、既読がつく


佐久早は?
佐久早あー
佐久早今の、忘れろ

Aえ、でも

佐久早いいから

Aわかった…


それから、返信が来ることはなかった。

「メール？」
『うん、佐久早くんから。でもおめでとうって何の話だろう…』
「え」
『？何か知ってる？』
「あー、うん…」

珍しく歯切れが悪い元也くん。どうしたんだろう。


「んん、A」
『はい？』
「話があるんだけど」
『改まって何？』
「えっとさ、俺と…」

言いながら、ポケットから何かを取り出す。




「俺と、結婚してください」




『……………え？』


元也くんが差し出したのは、蓋が開いた紺色のケース。中にはシンプルなシルバーの指輪。


『これ…』
「一応、プロポーズのつもり」


佐久早にバラされかけたけど、なんて笑っている。

正直、今の私には笑う余裕なんてない。


『え、ほんとに…？』
「うん。これからもずっと、俺と一緒にいてくれる？」
『はい、もちろん。ずっとずっと、私が元也くんの一番近くにいたい』
「ん、よろしくな」
『うん…』
「待って、何で泣くの」
『嬉じぐでえぇぇ』
「俺、Aの笑った顔が好きなんだけど？」
『うう…』


必死に涙を吹いて、笑ってみせる。
元也くんも、私が一番好きな顔で笑い返してくれた。

私だけに向ける、優しい笑顔。




お互いの薬指で、見せつけるかのように銀色が輝いていた。


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