検索窓
今日:22 hit、昨日:5 hit、合計:1,816 hit

いってらっしゃい【刹那side】 ページ35




“「───お前はいつまでそこで怠惰を貪っているつもりだ?!」”
受話器越しに放たれた怒声は、スピーカーにせずとも耳から離してしまうほど煩かった。

「失礼な。素敵な休息を謳歌していると言って下さい」
“「ッ〜……」”
ああ言えばこう言う。彼女の性格を理解している電話の主は無言の葛藤の末、冷静さを取り戻した。

“「……お前宛の案件が幾つも溜まっているん」”
「それを私がするメリットは?」
“「………彩子にしか出来ないから頼んでいる」”
頼む、戻ってこい。
その言葉に、彩子は満足そうに笑みを深めると 分かりました♪と答えた。

「───ふむ」
通話の切れた携帯電話画面を見つめつつ、彼女の思考は違う方へと向いていた。







立秋の候、お盆の過ぎた夏の休暇はあっという間と言うが、まだまだ蒸し暑い気候は過ぎ去ってはくれないらしい。


「───え、明日帰るの?」
プールへ向かう小学生が横をすれ違う。

早朝、急な連絡にも答えて来てくれた由唯くんに感謝しつつ、事の成り行きを歩きながら説明していた。

『そう!しかも朝一番の飛行機で!
いきなり言われたから なんで?って聞いたら「そんなに私と離れるのが嫌ですか?一緒に来ますか?」……ってはぐらかされて』
「あー……」
この短期間で母の自由奔放な性格を認知しつつあるウチらは考えるのを放棄するように青い空を見上げた。

「俺が呼ばれた理由は聞いてない?」
『それは「荷物運びでっす!!」……』
いつの間にか孤児院に到着していたらしい、門の前で待ち伏せていた母が抱きつくように2人の間に入ってきた。
一瞬で死んだ表情になるウチに気苦労を察した由唯くんは私から気を逸らす為に慌てて母の腕からウチを救出しつつ、朝の挨拶を交わした。

「いやー思いのほか大荷物になりまして、2階から下ろすのに人手が要るんですよ」
『弟妹達に持たせるわけにもいかないし、かといって業者を呼ぶほどでもないからって……』
もう、由唯くんが融通を効かせてくれたから良かったものの。

「せっちゃんのお母さんには大きな恩があるからね。これくらいなら喜んで手伝うよ」
快く引き受けてくれた由唯くんの優しさに、ウチは安堵の息を吐く。


「Thanks a lot♪」
では早速行きましょー
由唯くんの背中を押して楽しそうに誘う母に、ウチはため息を零しながら見つめていた。
無意識に柔らかくなった表情に気づくこともなく。



├→←└



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 7.0/10 (3 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1人がお気に入り
設定タグ:恋叶学園 , 派生作品 , 合作
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年8月9日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。