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ピピピ……
アラームの音が、遠くから聞こえる。
『アラーム…止めて―――』 無意識に“声”を出すが、アラームが止まらない。
AIの、故障―――?
『―――う――ん…うるさいぃ―――っ』
気だるい腕を布団から伸ばし、近くに置いているだろう携帯端末を探っていると、携帯端末に触れる前にアラームの音はぴたりと止り、代わりに頭の上から声が降ってきた。
「由唯くん起きて下さい!朝だよ」
重い瞼を開けば、由唯の顔を覗き込む、緑の大きな瞳が映る―――
(何。この幸せな 朝は―――)
『せっちゃん―――好き』
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6時半の朝食会場。ビッフェが始まったばかりという事もあり、まだ客は少なかった。
トレイに皿を並べ、前を歩く刹那はさっきから無言。
怒らせた自覚は―――ある。
『ごめんって―――せっちゃん』
由唯はトレイを持ちながら、刹那の後を追う。
―――朝。
目を覚ませば刹那がいて、半分寝ぼけたまま彼女の腰に抱き着いて、ベッドに引き寄せた。
勿論、「起きろ〜」と叫ぶ刹那に引き離され、”何もしてはいない”のだが・・・・・・
無理だろ?寝起きに好きな女の子が目の前にいるんだぞ?
半覚醒状態に自律もなにもあるか―――
いや、どんな時でも冷静に……在るべきだったんだ。刹那(好きな子)だからこそ。
『ごめんなさい―――』
肩を落とす由唯。自業自得とは言え、刹那に構ってもらえないのは―――辛い。
―――どうやったら、許してもらえるだろうか。
あれこれと考えていると、くるりと振り向いた刹那が、手に持ったトングで由唯の皿にブロッコリーを盛り付けた。
「―――これ食べたら、許してあげる。」
……ブロッコリー、大嫌いだけど。
刹那に嫌われるのは、もっと嫌だ……。
『食べます。』
その日の朝食は、由唯の人生で一番 野菜の多い 食事となった。
9時の集合時間―――
荷物を持ってロビーに集合した由唯の顔を、にまにまと覗き込む圭吾。
「―――昨夜はよく、眠れたか?」
『―――ははっ、おかげ様で』
―――覚えてろよ、この借りはレースできっちり返してやる。
そう誓った、遠征二日目の朝だった。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時