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「お待たせ――」
チェックインを終えた圭吾が、ルームカードを持って戻って来る。
「この時期宿泊客が多くてな―――人数分のシングルを確保できなかったみたいなんだが…ツインでも大丈夫か?」
本社スタッフは由唯と刹那を含めて8名。
「ええ、問題ないですよ」
「どうせ毎回、誰かの部屋に集まって女子会していますもん」
そう言うと、3名のレースクイーンのお姉さんが慣れた様子でルームカード2枚を受け取る。
「じゃぁ、近くのコンビニでちょっくら酒でも買ってきますか―――」
「いいね〜」
男性スタッフ2名も、カードを1枚受け取り…
圭吾は由唯にカードを手渡した。
『―――荷物運んどいたらいい?』
どうせ酒を買いに行くんだろう?
このメンバーだと、刹那は女性スタッフの誰かと相部屋だろうが、昼間の雰囲気を見ていれば、問題ないだろう。圭吾と同室は今に始まった事ではないし、バイクレースの遠征では毎回深夜まで二人で作戦会議をする為、同室だ。部屋の中で酒を飲まれることにも、慣れている。
何の疑問もなく、圭吾の荷物を肩に担ぐ由唯の腕から、荷物を取り上げる圭吾。
『―――……?』
「お前はそっち。仕事が立て込んでいてな―――悪いが俺は、シングルを貰うぜ?」
圭吾は、手に持っていたもう一枚のルームカードを口元に当てた。
『そっち…って』
にやにやとしながら指差す先を、振り向く―――
そこには、大きな緑の瞳を見開いた、刹那の顔…。
『はぁぁぁぁ?!』「ええええ?!」
同時に叫んだ二人の声に、ロビーにいた他の宿泊客の視線が集まった。
由唯は慌てて圭吾の胸倉を掴み、刹那に聞こえないよう配慮しながら抗議する。
『いやいや、おかしいだろ?!シングルあるなら刹那に渡せよ!相部屋で仕事してる事なんていつもの事だろ!』
「いーだろ?酒の飲めないガキ同士なんだ、同じ部屋でも……」
『いーわけねぇだろ!保育園児じゃないんだ!』
ッわ?!
由唯の顔面を掌で押さえつけ、圭吾は後ろでおどおどとする刹那に声をかけた。
「刹那さんは―――こいつと相部屋は、嫌?」
「えっ?!」
始めこそ驚いた声を上げた刹那だが、
「ウチは―――大丈夫…です……」
と俯いてしまう。
段々と力を無くしていく返事に、由唯は『言わせてるだろ、それ』と圭吾を睨む。人一倍気を使う刹那が、この場で個室が良いなどとは性格上言わないだろう。圭吾はそれが解っていて、この部屋割りを提案したのだ。それが、由唯には腹立たしかった。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時