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『はい!せっちゃん―――あ〜んして♪』
孤児院のダイニングテーブルで、満面の笑みを浮かべた由唯は、刹那の口元にスプーンを差し出した。
「じ……自分で食べれます―――」
『ダメだよ、せっちゃん両手怪我してるんだから』
刹那の母による適切な処置で、どうやら傷痕は残らないだろうとの事だが、大事な刹那の手首に傷をつけた事は、自分が不甲斐ないせいであり、許せない―――
治るまで、せっちゃんには出来るだけ両手を使わせないから。と、意気込んだ由唯は毎日孤児院に通っている。
「刹那おねーちゃん、食べさせてもらってる〜」
「こどもみたいだ〜」
物珍しさに騒ぎ立てる妹弟達に、刹那は向こうに行ってなさいと声を荒立てる。
『―――ごめんね。痛む?手が使えないと、不便だろう?』
「もう痛くないし、手も使えますッ」
『―――ダメだよ。筋や皮膚の伸展が激しい関節部位は治りが遅いから、傷になったら困る―――』
食卓の上に伸ばされ、包帯の巻かれた両手を取ると、由唯は両手で包み込むように把持して額に当てた。刹那は大袈裟なんだから―――と、視線を逸らせてしまう。
『俺にできる事なら、何でも言って―――』
「―――……由唯 くん―――」
『着替えとか―――お風呂とか……?』
ニコリと笑って提案すると、案の定顔を真っ赤に染めて両手を振り上げた。
「なっ?!もぉ!!!」
―――由唯くんは、意地悪だっ!と、可愛い顔で怒られた。
『ダメだよせっちゃん、手を乱暴にしちゃ―――』
慌てて手を制止するが、聞き入れてくれない。
向こうでは、刹那の母とせんせいが、くすくすと笑っている。そろそろこの二人にも怒られそうだから、冗談だと思われているうちに、止めて置こう―――
「自分で食べます」とスプーンを握る刹那を、仕方なしに隣で見守る由唯。
―――あの時、刹那が来てくれた事…本当に嬉しかったんだ。
この気持ちを、いつかきっと、君に返せたらいいな―――
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時