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暫く雑談を交わした後、千世は女中たちと共に奥の間に消える。
次々と運ばれてくる料理に、前の席では母達が嬉しそうに声を上げた。
「どれも美味しそう―――本当に、お料理がお上手なのね、千世さん」
「須藤の名に恥じぬよう、きちんと躾けてありますので、きっと由唯さんのお役に立てますわ」
どこぞの三つ星レストランを彷彿とさせる料理が、食卓を彩る。説明される料理名は、どれも横文字で聞き慣れない物ばかりだ。
だが、全ての料理が運ばれても、千世が一向に戻ってこない。
「どうしたのかしら―――」「誰か千世を呼びに……」
洋間に、騒めきが広がる―――
タイミングよく振るえる左手首に、由唯は下を向いたまま口を綻ばせた。
「―――お待たせして、申し訳ございません……」
丁度その時、女中に連れられた千世が客間に戻るが、その顔色は青ざめている。
(―――なんだ。思ったより早かったじゃないか……おかげで料理に手を付けずに済んだ)
右手を机下に忍ばせて、届いたメッセージを確認する。
“第三者の介入で、双方のメリットとなる取引を崩せた。今の須藤家に、七瀬のメリットはない。姫さんの安全も確保”
(―――やはり、刹那に手を出していたか)
確認したメッセージに、由唯は奥歯を噛み締めた。
由唯は左隣の席に座る千世に、にんまりと顔をほころばせて尋ねた。
『大丈夫ですか?千世さん。顔色が優れないようですが―――』
「―――……問題ございませんわ。ご心配をおかけして……」
その声は、明らかに震えており、前に座る母達も、千世のその様子に、心配そうに声をかける。
『もしかして、保護していた黒猫が 逃げ出してしまいましたか?』
由唯の言葉に、千世は目を見開き振り向いた。
「―――どうして……」
彼女の慌てようを見れば、叔父に依頼していた“根回し”が功を奏したというのは、本当だろう。
結託のメリットのない須藤家を、あの男が贔屓にするはずがない。早々に斬り捨てるに決まっている―――
そうなれば、この縁談も終わりだな……。
“―――仕事が早くて助かる”
由唯は顔を正面に向けたまま、机の下で返信メッセージを打ち込むと、即座に、メッセージが帰って来る。
“オレが―――じゃなくて、綿貫先輩が。な”
(―――綿貫…先輩?)
どういう事だ?
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時