好きな物 【由唯 side】 ページ19
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和造りの屋敷を 女中に案内されて歩く。
由唯の後ろでは、母と須藤の母が楽し気に話していた。
どうやらここ(食事会)に、父は呼ばれていないらしい。
(まぁ―――こんなくだらない事に付き合う人ではない、か。あの人は人間を、有益か否かでしか判断しない。)
由唯にとっては、好都合だった。
通されたのは、広い洋間。
豪華な調度品が家を誇示するように並べられている。
「ようこそ―――お越しくださいました…由唯さん」
丁寧なお辞儀の後、由唯をテーブルに案内する千世。
すれ違い際に睨みつけると、由唯は彼女の耳元に言葉を落とした。
『―――刹那に手を出していないだろうな』
向かいの席に案内される母達は楽し気に話を交わしており、こちらを気にする様子もない。
由唯をテーブルに案内しながら、千世は妖艶な笑みを浮かべて返す。
「―――さぁ、何の事でしょう」
くすくすと笑いながら、千世は由唯の左隣に腰かける。
「―――そう言えば私、今朝方に黒い子猫を拾いましたの…」
『？！！』
「あまりに可愛い“子猫”で、可哀そうに震えておりましたので保護したのですが―――どうしたものでしょうか」
『――――ッッ！！』
振り向いて睨む由唯に、前の席に座る母達が楽しそうに話に加わってきた。
「あら！千世さんも猫がお好きなの？そう言えば、由唯さんも仔猫を飼っていたわね―――」
「まぁ、同じ趣味をお持ちなんて、お似合いですね」
(こいつ等は―――何も知らないのか？)
隣の千世に視線を向けると、背筋を伸ばしたまま、ニコリと笑う―――
『でしたら―――子猫の処遇は…由唯さんのお心次第といたしましょう』
由唯の左腕に、着信が届いた形跡はない……
――――……叔父からの連絡は、まだか
挑発するような千世の視線に、由唯は下を向いて口を開いた。
『―――子猫は、一匹で十分です。安全の確保できる家族の元へ、返してあげて下さい』
「ふふ…お優しいのですね。由唯さんがそうおっしゃるのでしたら、この晩餐が終わった後、家族を探して返して差し上げるとしましょう―――」
千世は由唯の左手を取ると、その甲に自らの手を重ねた。
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作者名：しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年8月9日 9時
