孤独の晩餐 【由唯 side】 ページ17
＊
夕刻の静けさを割る様に、鳴り響く携帯電話の着信―――
画面に表示された知らない番号に、由唯は目を細めた。
手に持っていたマグカップをローテーブルに戻し、小さなため息をつく。
『繋いで』
由唯の声に反応し、AIスピーカーから耳障りな“音”が発せられる。
“「ごきげんよう、由唯さん―――」”
携帯番号まで教えたのか……心の中で舌打ちをし、由唯は分かりきった問いかけを返す。
『―――誰』
ふふっ…
柔らかい微声の後、女は丁寧に答えた。
“「千世です―――。晩餐を、ご用意いたしましたの……お義母様とご一緒に、是非いらしてください」”
『―――お断りします』
即座に、返答を返す。
母を迎えに寄越せば、由唯が参加するとでも思ったのだろうか。
―――そんな、分かり切った事を言う為に、わざわざ電話をしてくるなんて……
番号を着信拒否に登録するため携帯電話を手に取る由唯を、千世は柔らかい声色を崩さずに制した。
“「どうか、通話を切らないで下さい―――由唯さん。切れば、右手のミサンガも切れてしまうかもしれませんよ？」”
ピクリと、由唯の右手が痙攣する。
『―――どういう、事ですか』
“「心を込めて、ご用意いたしましたの……。ご安心ください、由唯さんの嗜好は、お義母様から伺っておりますから」”
湧き上がる苛立ちに、震える手を握りしめる。
―――落ち着け、冷静になれ………
ここで取り乱せば、ヤツ等の思う壺だ。
『……なら、知っていると思うが。私は相当な偏食ですから…嫌いなものは絶対に口にしない』
“「ふふっ！存じ上げております。見合いの席でも、お野菜には手をお付けになりませんでしたもの―――」”
夫の食を満たすのも、妻の務めですから――――お任せくださいな？
スピーカーから響く女の声に、虫唾が走る―――
落ち着け……
右手首を握りしめ、由唯は小さく息を吐いた。
『―――ああ、あと。 好きな物を取られたら……何するか分からないから』
“「――――……分りました。心に留めておきますわ」”
通話が切れ、静けさを取り戻した室内に、今度はインターホンが鳴る。
玄関ドアを開けた由唯は、扉の前に立つ女性を、睨みつけた。
「お迎えに来ましたよ―――由唯さん」
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作者名：しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年8月9日 9時
