├ 想いよ届け 【由唯side】 ページ1
「須藤…千世さん?―――婚約者…って」
『聴かなくていい、せっちゃん。 その件は断ったはずだ、俺は君に興味はない』
由唯は、背後の刹那の言葉を切った。
(これ以上刹那の前で 紛い事を話すな……)
由唯の警戒もむなしく、千世は柔らかな口調で挑発を続けた。
「先日のバイクのレース…お母様にお願いして、客席で拝見しておりましたの。どんな流れでも冷静さを失わず、まるで由唯さんの為に用意されたようなレースでした。そんな貴方が―――何を慌てていらっしゃいますの?」
『―――ッ』
(バイク雑誌を見たと言っていたな―――俺が叔父のブースに立つことは、予想できるという事か)
先日の見合いの後、母には『嫌い。断れ』とハッキリ伝えていた。この話は破談になったと思い込み、すっかり油断をしていた。
―――まさかこんなところまで 来るなんて……迂闊だった。
『行こう―――せっちゃん』
由唯は刹那の肩を押してブース奥の休憩スペースへと促した。
刹那は後ろを気にしている様子だったが、これ以上あの女と関わりを持たせるわけにはいかない―――。
あいつ等は、俺が大事にしようとしたものを―――どこまでも壊しにかかる。
逃げ道を塞ぎ、退路を断ち―――思う道へと誘おうとする。それが、子どもにとっての正義だと疑わないから。
俺には―――そんなあいつ等に抗う術がない。
何をやっても上をいく―――初夏の様にはなれない。
奪われてしまう―――?
せっかく見つけた、夢中になれるものを……
バイクも―――刹那も……
刹那にだけは―――勘違いされたくない。
彼女だけは……手放したくないのに。
もやもやとした気持ちが胸中をうごめく中、強引に彼女の手を引いて裏の休憩スペースへと向かう由唯を、呼び止めるように刹那が声を上げた。
「七瀬くん―――あの人……」
――― 君だけは。
そんな刹那の言葉を遮り、由唯は彼女の肩を抱きしめた。
『―――せっちゃん、俺は―――せっちゃんが 好き。
君だけは離したくない…今を誰にも、奪われたくない』
恐怖で、抱きしめる手が震える…
大事にしたいはずなのに、その彼女を思いやる余裕さへなくなる
強がって…カッコつけているだけで――
本当の俺は―――こんなにも弱いんだ。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時