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ウチは今、何故か由唯くんに引き寄せられ彼の広い胸板に顔を宛てている。
「すみません。ちょっと喉が渇いて」
「じゃあ、それ飲んだら直ぐに部屋に帰るんだぞ」
「はーい」
どうやら、見回りをしていたのだろう先生が由唯くんに注意を促している。
立ち位置からしてウチの存在には気づいていない様子。
それもそうか、こんな夜遅くに男女が会っていたなんてことが明るみになったら問題になる。
それを察した由唯くんによる機転の賜物だ。
軽く会話した後に遠くなっていく足音。
頭上で息を吐く音が聞こえた。
んー、そろそろ離してもらえるとありがたいんだけどなぁ。
じゃないとウチの心臓がもちません。
まるで耳元に心臓があるんじゃないと言うほど五月蝿い己の心音を紛らすように、彼の胸板をトントンと叩いた。
「あ、ごめんね」
緩んだ手にウチは彼から顔を離す。
まだ背中に感じる手の感触と未だ近い距離感に羞恥と緊張を抱えつつ、彼を見上げた。
『庇ってくれたんだよね、ありがとう。ゆ、由唯くん』
お礼は笑って言うがウチの中のルール。
ぎこちなかったけど見逃してほしい。
「せっちゃん、俺──」
ドドォォン!
目も開けられない光と同時に地鳴りが轟いた。
ウチは小さく悲鳴をあげ身を縮こませた。
「──っくりしたー」
結構近くに落ちた?といつものトーンで言いながらも、ウチの背中に回していた手はとても力強くすごく安心する。
思わず掴んでしまった彼の服はウチのせいで少しシワがよっている。
申し訳ないけど、手が震えて離せない。
雷が怖いわけじゃない。
光が怖い訳じゃない。
ただ、爆発的な破裂音に体が拒否反応を起こすのだ。
理由は分からない。だから直しようが、ない。
いつからだろう?あまり思い出せない。
思い、出したくない………
「──っちゃん……刹那」
『っ……あ』
見上げると心配そうに揺れている飴色。
ありがとう。また助けられたのに、その一言だけなのに、喉に張り付いて出てこない。
金魚のように口をパクパクさせるウチに、由唯くんは一瞬 口を結ぶと、無言で頭から抱き寄せた。
その初動があまりにも優しくて、させるがまま彼の胸板に顔を埋めた。
「──大丈夫。刹那の傍には、俺がいるから」
その言葉で思い出した。
昔、小学校から帰る途中で雷雨にあい 近くの公園で1人恐怖に身を縮こませていたことを。
先生が迎えに来るまでずっと1人だったから、その時の恐怖が体の記憶となって残っていたのだろう。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時