八十三.花の在り処は何処編 ページ22
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正月も長期休暇も終わり、緊張の日々が訪れていた。
学校もあまり行くことはなく、家に籠っているか会場にいるかのどちらか。
切羽詰まっていた。
「A」
家を出ようとしていると、優しく声をかけられる。
連日の夜勤で疲れているであろう身体をわざわざ見送りをするために起こしたようで、まだ目は開いていない。
振り返れば、大きな手が頭に勢いよく乗せられた。
「頑張れよ」
まるで幼少期の頃を思い出させるような安心感があって、
「行ってきます」
不安な心が少しだけ解かされた。
優しい笑顔を抜け、扉を開ける。
いつも通っている道。
挨拶代わりに寄ってくる野良猫。
よく利用している電車。
どこにいても、それが日常の光景なはずなのに、初めての場所だと思えてくる。
世間では休日のはずなのに、やはりAと同様、制服を着た若者ばかりだ。
目的の駅に到着する音を合図に、車内はざわざわと動き始める。
(ああ、いよいよだ)
今にでも押し潰れそうな胸を守るように、きゅっと拳を握る。
大きな無機質な建物の前には、制服の群れ。
皆寒そうに身体を小さくして前へ前へと進んでゆく。
門の前には塾講師や教師であろう大人達が凍えながら立っている。
自分の生徒を見つければ、笑顔で応援していて。
(あの担任が来る訳)
そう思っていると、門のずっと先の喫煙所に見慣れた影が一つ。
「坂田先生」
建物から離れるのも躊躇せず、男の方へと足が向いていた。
Aに気が付いた銀時は、舌打ちをして煙草の火を消す。
「驚きました。先生は来ないと思ってました」
「はあ?何言ってんの。俺はただ煙草を吸いに」
嫌そうな顔をして反論する坂本の声を、
「おーい、金時ぃ。あっちにお前とこの生徒おったぜよ〜」
「…あの馬鹿」
楽しそうに遮る大きな声。
振り返れば、坂本はAに気が付いて嬉しそうに手を振った。
「Aもおったがかあ」
「当たり前です。センターの会場ですし、受験生は大抵いますよ」
「それもそうかあ」
時計を見れば、開始時刻に刻々と迫っていく針。
「やば。行って確認したいメモあるんだった。
…坂田先生、坂本先生、来てくれてありがとうございます。行ってきます」
少し恥ずかしくなって早口になる言葉。
くるりと背を向け、会場に足を向けた時、
「頑張れよ」
「今まで頑張ってきたとこを見せてきい!」
尊敬する恩師達のエールが聞こえた。
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るう - 坂本ざああああああああん”〜! 最高!!😭 (2022年12月25日 20時) (レス) @page11 id: ee892c350f (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - ぼむぼんさん» わー!ありがとうございます!かわらず楽しくかいていきます! (2021年9月16日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
ぼむぼん(プロフ) - 続編おめでとうございます!!無理せず頑張ってくださいね!! (2021年9月16日 0時) (レス) id: cd33b2bf6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年9月15日 23時