【双星の陰陽師】道化【水度坂勘久郎】

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「……藺生」

あの、小さい手の感触を思い浮かべて、振り切る。面具さえあれば任務に参加できるように計らってもらったとは言え、戦力的には微々たるものだろう。白の狩衣、白の制帽、懐かしい装備を身につけると、まだ現役かなぁなんて、自惚れかもしれないけど思ってしまう。

美玖さんも義父さんも、桜も、全員が五体満足であることを願うけど、それも全て儚いことで、今はこの腕を振るうことしか私にできることはない。

「A」

くるくる扇を返しながら、呪力のバランスを取りながら、風の力で浮きながら、真蛇を相手取る。
縋り付きたくなるくらい不安だけど、声に顔は向けず、私も名前を返す。

「勘久郎」

届いたかどうかは怪しいけど、それより先にいる銭ゲバには届いたらしいので、聞こえていると思う。
謹慎中の弟くんも、謹慎解除で駆り出されてる筈だけど、まだ着かないのかな。準備が遅い男は振られやすいよ。

物語で読む限りなら、バッドエンドもメリーバッドエンドも大好物だけど、現実にそこまでのスリルは求めない。

ケガレの首を風圧で掻っ切りながら、後ろから来るケガレを蹴り、距離を稼ぐ。かなり体捌きも悪くて見苦しいけど、効率の良さと質に勝るものは今は見受けられない。

まだ小さい子供に、本土なら当たり前の夢を見させてあげるために、死なずに帰らなきゃいけない。

その思いで、倒壊した嘆きの台を見やった。

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