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「は……」
僕は声の主を見上げ、直後、目を伏せたくなった。
上下グレーのスウェットに黒のサンダル。
格好は至ってシンプルだが、捲られた腕にはゴリゴリのタトゥーが彫られ、首元には堂々とした鬱血痕、口には煙草を咥えていたのだ。
整った顔で小首を傾げる彼に、ええと、と言葉を濁らせていると
彼は人懐こい笑顔でんははと笑った。
「すんません、ビビらせちゃいました?
ただの学生なんで、安心してください」
「あっ…はい、ごめんなさい」
「いやいや。酔っ払いかと思って声掛けたんだけど、そーゆー訳じゃないっぽいすね。
…ウチの学生じゃないよね?つか大学生?」
「…はい。S大です」
「すげぇ、超エリート。待ち合わせすか
?もう終電すぎてるけど」
…案外親しみやすい人だ。
僕はとても失礼な態度をとってしまったかもしれないと思った。
…もしかしたら、これはチャンスなのでは。
少し悩んだ末に、僕は彼に北斗の話をしてみることにした。
最寄りの美大に通う友人を自分の出演するライブに招待していたけれど、体調を崩したらしく、来なかった。
彼の友人が世話をみているらしいが、心配で家も分からないのに勝手にここまで来てしまった。
…そう、大まかに今の状況を彼に説明すると
どういう訳か彼は複雑そうに眉を顰めた。
「…?どうかした?」
「あー…いや…差し支えなければ、その友達の名前、教えて貰っていいすか?」
「…北斗です。松村北斗」
「あーね…」
彼は困ったなぁ、という風にぽりぽりと首を掻く。
…もしかして、この人、
「…樹?」
「…京本、サン…?」
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作者名:ななみや | 作成日時:2023年7月9日 18時