File.18-70 ページ31
勢い良く声を張り上げた高木巡査部長は、室内に響かせた声の緊張感を其の儘に目暮警部の元へ駆け寄った。
「被害者の部屋を調べたところ...録画データが全てなくなっていました！」
「何っ！？」
真逆ロマノフ王朝の財宝を好んで盗む殺人犯だとばかり思っていたが、ビデオデータまで強奪するとは中々の物好きだ。それとも実は寒川さんはロシア皇帝一家の血を引く人物で、彼の撮ったデータすら財宝の様に貴重なのか。
「そうか！それで部屋を荒らしたんだな！？」
普通に考えれば、蠍にとって不都合な何かを撮影されたのだろうが。
それにしても室内を掻き回すとは、矢張り品位に欠けている。如何しても録画データを隠滅したいのなら船に火を放つ方が何倍も楽で塵一つ残さず済むというのに。自分の身を危険に晒せない様な人間は、罪を犯す資格など無い。
探偵も、真実を追い求める為には自身を省みない必要があるのかも知れないが、彼はそんな事すら考えていないのだろう。
中断した耳打ちに痺れを切らしたのか、ソファから飛び降りて突然走り出した少年は、頭上から降る毛利探偵の「こらボウズ！」なんて怒声も気にせず広間を横切る様に一直線に走って行く。
「あ、いいの！私が...」
そんな優しい事を言いながら毛利探偵へと手を挙げた蘭ちゃんを、更に「大丈夫、見てくる」と肩へ手を添えて制止しつつ先に立ち上がる。あの少年の事だ。お手洗いに行った訳では無いだろう辺りからして、事件現場に戻ったか誰かと連絡を取りに行ったか、将亦別の何処かへ何かを探しに行ったか。事件に対して折角アクティブな彼を、子どもの好奇心だと連れ戻されては私も困る。
走っても良いが、流石に脚に響く。
若干の早歩きで広間を抜け、少年が曲がって行った方向へと曲がった瞬間に速度を落としてのんびり足を運びつつ周囲を見渡してみるが、あのすばしっこい少年が簡単に見付かる訳も無い。
さて、彼なら何処に行くだろう。
なんて、偶に考えさせられる幼馴染の思考回路。あの場で私から聞ける情報など限りがあるし、態々連れ出してゆっくり話すのも不自然。となると私は諦めて、別の誰かに調べてもらった方が早い。
高校生探偵の彼なら頼るのは警察だが、あの少年が真っ先に当たりを付けるとすると近所の風変わりな発明家。
「.....無線電話、かな」
一般的に販売されている電話では、海上だと通話が出来ない。
脆弱な電波とは実に不便だろう。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年3月23日 21時
