〈第一編〉誰がためにその雨を

第14話 ページ17

ふぅと息を整え、着物と髪の乱れを直す。
胸辺りをさするが、動悸の方はなかなか治まってくれそうにない。
顔のほてりも落ち着かず、むしろひどくなっていく。

・・・本人に聞こうとするのは、こうもつらいものなのか。


腹を括ったほりは、安兵衛のいる仕事部屋の襖前に正座した。

「失礼します」

ほりは襖を両手で静かに開け、安兵衛は持っていた筆を硯に置き、ゆっくりと振り返る。

互いに向き直るが、どんよりとした空気がながれる。

「・・・買物はどうしたんだ？」

「えっ、あぁ、正種・・・不破様に運んでもらっております」

「そうか」「・・・」

自身の膝の上に重ねておいた両の手は、振るえをごまかすかのように着物を強く握った。


「すまなかった」

「え・・・」

いきなり安兵衛が頭を下げたため困惑していると、

「そんなに大量の荷になるとは思っていなかった・・・。
今度からは、出来るだけ一緒に行くようにする」

正直ほりにしてみれば、そこはとてつもなくどうでもよかった。
どうでもよかったことを勘違いし、真顔で謝罪する安兵衛に、ほりは思わず吹き出した。

「え、いや、仕事から手が離せなくて・・・」

ほら、と自身がこれまで向かっていた机から大量の資料を取り出す。

その的外れ過ぎる行動に、ほりの笑いはおさまらない。
安兵衛も、よくわかってはいないが、ほりの矯笑に相好を崩した。


安兵衛は真面目過ぎるようで、実はどこか変で・・・

言うなれば、とんでもない程不器用であることに、ほりはこの時、初めて気がついた。






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