密やかなとき【黒尾鉄朗】 (ページ41)

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第41話　孤爪研磨は見たページ41

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「球出し、超難しい。どうやったら上手くできる？」

「まぁ、慣れだよな」

「だよねぇ…。んじゃあ鉄くん、私が慣れるまで付き合ってよね」

「喜んで」

休憩もそこそこに始まったその会話を、当事者以外の全員が固唾を飲んで聞き入っていること、二人は知らないんだろうなぁ。

その証拠に、何かを耳打ちし合っては、キャッキャとはしゃいでいる。

完全に、二人だけの世界ってやつみたいだ。

あんなに頬が緩み切ったクロ、見たことない。

Aさんの前だと、そんな顔するんだ…へぇ〜…そう。なるほどね…なんて思った。

クロ、絶対隠す気ないでしょ…とも思った。

Aさんが“黒尾くん”と呼ぶことを諦めた日、クロは誇らしげにそして好きなだけ、Aさんのことを名前で呼んだ。

クロに尻尾が付いてたら、きっと、ちぎれるくらいブンブン振り回してたと思う。

それくらい、クロはわかりやすかった。

プライベートと、プレースタイルは必ずしも一致しない。

おれはそれを、そのとき初めて知った。

そのあたりからだと思う。

『あれ？このふたり、距離感おかしくない？』という、疑問がチーム全体を駆け巡ったのは。

ただし、ふたりを側で見すぎて、感覚が麻痺してる夜久くんを除いて。

何となく、訊いてはいけない、暗黙の了解。

そういう空気が、ここ最近ずっとあの辺りを支配している。

めんどくさいし、やりづらい。というか、ぶっちゃけ、バレようがバレまいが、おれには関係ないんだけど。

……そう思うけど、怒られるの嫌だから言わないでおく。

そろそろ休憩も終わろうかというとき、クロが、『頭にゴミ付いてる』というのを口実に、Aさんの頭をくしゃくしゃなでるところを目撃した。

照れたようにふわっと頬を染めるAさんと、してやったり的な表情で笑うクロ。

ホントに、このふたりはバカ……？

全然、学習しない。

その光景を、たまたま隣で見ていた監督が、『ハハっ、若いなぁ』と、豪快に笑った。

……ねぇ、クロ。Aさん。あ、あと、夜久くん。

ふつうに、バレてると思うよ。

それと、監督、全然そういうの、気にしてないんじゃないかな。

と、正直思ったけど、言うのもめんどくさい。

おれ知らないから、そっちで勝手に気づいて。