第53話 前途多難 ページ3
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「研磨くんって、もっと無口なのかと思ってた」
『冗談も言えるなんて』と、照れ隠しのために付け足す。
「……そうでもないです。けど…」
そう言いかけた研磨くんの視線は、なぜか真っ直ぐに黒尾くんへと注がれていた。
「黒尾くんがどうかした?」
『いや…』と、不意に研磨くんが私を見下ろす。そして、微かに目が合った。
妙に真剣な眼差しに、心拍数が増える。
何の企み。
君のその目は。
もどかしい間を開けて、研磨くんがゆっくりと口を開いた。
「……先輩の雰囲気が何となくクロに似てるから…話しやすいのかもって…思っただけです」
「えっ」
「先輩、満更でもないって顔…してます」
「か、からかわないで」
研磨くんの独特なリズムや雰囲気に、これでもかと乱されてしまう。
練習見学中とは思えないほど赤く染まった頬を見て、研磨くんは『…やっぱり、先輩っておもしろい』と、クスリと笑った。
ほんとに、他人に興味ないなんて、嘘ばっかり。
黒尾くん、幼なじみのこと全然わかってないじゃない。
熱った頬を両手で覆い隠して、向こうにいる黒尾くんをキッと睨みつける。
こんなはずじゃなかったのに。
もっと、先輩らしく、黒尾くんに誘われた有望な人材らしく、堂々としてたかったのに。
ものすご〜く想定外。
黒尾くんの作戦も、研磨くんの興味の矛先も。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時