春の匂い.3 ページ37
私とシャオくんは何時ぞやのバルコニーに寄りかかる。前と同じように、まんまるの月が星海のキャンバスに浮かんでいる。
「いやー、和平通ってマジで良かったな。とりあえずここ半年はだいぶ平和になる」
今回シャオくん達が行った国と私たちの国は長い間戦争をしていた。生命の削りあいにお互い疲弊していて、最後は緩衝地帯での睨み合いが続き何日も何ヶ月も何年も戦い続けた。
「長かったなあ。二ヶ月ぶりに湯船に使った時ちょっと泣いたもん」
「冬の睨み合いとか二度としたくないわ。……うわ思い出しただけで鳥肌立ってきた」
でも、とシャオくんが続ける。
「もうほぼ終わりなんだよな。全部」
そうだね、と返そうとしたが舌が動かず、ただ私は頷くだけだった。
遠くで誰かが笑っている声が聞こえる。コネシマか、いやグルッぺンだろうか。きっとみんな笑っている。ようやく戦争が終わるんだ。嬉しいに決まっている。
「なんか実感わかないな。戦争が終わるなんて」
「あんだけ長く続いたのに、紙にサインしたらはい終わりだってさ。グルッぺンがサインしててさ、本当に呆気なかったよ」
「そんな簡単に済んじゃうんだ」
「……まあ、せやな」
話し合いで解決できないから戦争が起こる事をみんな分かってる。グルッペンがつくる未来を信じているからこそ走ってきた。でも理解は出来なくて、心のどこかでは他の道もあったんじゃないかって思っていた。
「……私、戦争が終わる事を考えた事が無かったんだ」
「うん？」
「小さい頃からずっと戦火と隣り合わせで、大人になっても毎日誰かを殺して、それが当たり前みたいな感じで。嫌だって思った日もあったけど、『いつか』を信じてなかった。だからかな。途方に暮れてるって感じ」
明日死ぬことは考えていたけど、明日生きていることはあまり考えてこなかった。この軍に加わってからは楽しいことが増えて、それでも確実に次の朝日を見られる保証は無い人生だった。
「ね、シャオくんは何かやりたい事ってある？」
「んー、とりあえず一回静かなところで暮らしたいかもな。朝遅く起きて、ダラダラ飯食う生活してえ」
「それいいね。私もやろうかな」
そこまで言ってあれ？と気付く。
故郷がない私は軍の居住区で生活を続けるから、軍から離れるシャオくんとは今までみたいに毎日会えなくなる。
……寂しくなるなあ。
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さとうきび(プロフ) - えるをん×@×IAさん» コメントありがとうございます！これからも精進してまいります。応援、よろしくお願いします！ (2018年4月5日 22時) (
レス) id: d7a52c799a (このIDを非表示/違反報告)
えるをん×@×IA(プロフ) - とても素敵な作品だなと思いながら読ませていただいている者です。これからも頑張って下さい(´q`) (2018年4月5日 0時) (レス) id: b8e4739678 (このIDを非表示/違反報告)
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