おもいで.1 ページ32
「早く立て！そんな動きで生きられると思うな！」
「っぐう……」
「ナイフを持て。さあもう一度だ」
どうにか目を開けると、訓練用のナイフが目先に転がっている。それに必死に手を伸ばす小さい手。
「……っやあああああ！」
「まだ遅い！もっと体を捻るんだ！」
身体の差が二倍くらいある教官にいとも簡単に吹き飛ばされる。その度に私は背を着き、土埃を巻き上げる。
「がは、っ」
「受け身を取れ！」
「は、はいっ……」
「返事が小さい！」
「はい！」
喉奥はカラカラで、どうにか絞り出して返事をする。
今日の天気は、曇りなき晴れだった。
「ねえマザー、私マザーみたいになりたい」
「私のようにですか？」
「うん。教会で働いて、困っている人を助けるの。真っ白な服を着て、神様にお祈りするの」
私の口癖に、マザーは困ったような顔をしながらこう答えた。
「あなたが今なろうとしている職も、いずれ国民を助け守るという立派な仕事です。真っ白な服を着なくとも、人は救えるのです」
「でも、痛いのは嫌だよ……」
マザーは続ける。
「大丈夫です。怖くありませんよ。神がいつでも守ってくれています。さあ手を洗っていらっしゃい。今日の夕食はシチューです。焼きたてのパンもありますよ」
「本当に？洗ってきます！」
走り去る私の後ろ姿を見て、マザーはため息をついた。
「……ごめんね」
後に聞いた話だが、この教会は軍事学校と密接な関係にあり、教会から毎年何人かの孤児を通わせることを条件に、学校は教会に資金を援助していたようだ。男が少なかったのか、余った枠に私が選ばれたらしい。
そしてマザーという職は当時、上級階級、あるいは裕福な家庭で育った人しか就けない職だった。私のいた教会はまともだったが、子供を物のように扱う所もあったようだ。
子供というのは純粋で、この頃の私はまだ神様というものを信じていた。
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さとうきび(プロフ) - えるをん×@×IAさん» コメントありがとうございます！これからも精進してまいります。応援、よろしくお願いします！ (2018年4月5日 22時) (
レス) id: d7a52c799a (このIDを非表示/違反報告)
えるをん×@×IA(プロフ) - とても素敵な作品だなと思いながら読ませていただいている者です。これからも頑張って下さい(´q`) (2018年4月5日 0時) (レス) id: b8e4739678 (このIDを非表示/違反報告)
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