２６：一人 ページ26
櫻井はゆっくりと大野の隣に腰を下ろした。
肩が触れ合う距離。
微かな息遣いが聞こえる。
首をほんの少し横に向けただけで大野の横顔が目に入る。
櫻井は視線を戻し、目を閉じた。
…また彼の香りが漂ってきて、息苦しさに思わず立ち上がった。
「…」
仰向いたままの大野の正面に立ち、そっとタオルに手を伸ばした。
「！」
目を覆ったまま見えていないはずの大野の手が、まっすぐに櫻井の手を捕えた。
強く握りしめられた手首から、徐々に痺れと同時に熱が上がってくる。
「…翔くん」
「…はい」
「…俺…一人になる…と、思ったんだ…
あいつが、町がいなくなって、一人になるんだ…って、思った…」
「智くん…？」
「でも…今は…
違ったんだね…翔くん…」
「…そうだよ、智くんは一人じゃ、ないよ。
いつもみんながそばにいるよ。
…俺がいつも、そばにいるよ…」
「翔くん…？」
「ん？」
「俺…あいつを…あいつの未来を願いながら、
でも、ほんとは、自分が…怖かっただけなのに…
自分の事ばっかり…おれ、サイテーだよ？自分勝手だよ…」
「智くんっ…そんなことな…」
「俺を…一人に、しないでくれる…？」
「！さと・・」
「それでも、そんな俺を、…俺の、そばにいて、くれるの？」
「…さとし、くん…！」
大野の身体が揺れ、タオルがはらりとスローモーションのように落ちた。
真っ赤に染まった眼が、外からの明かりに揺らめいていた。
「俺は、…俺…」
櫻井ですら初めて見る縋るような大野の眼に、思わず握られた手を引き寄せた。
大野の身体が櫻井の方へ傾いて、引き寄せたはずの手から力が抜けてはらりと落ちた。
そのまま大野は櫻井を掠めて、足元に崩れ落ちた。
「！！ 智くん！」
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作者名：tororo
| 作成日時：2011年10月13日 18時
