勝利を手に入れるのじゃなく、敗北を手放す。【天月】

□ ページ19

.






適当に裂かれた紙をつまみ上げる

少しよさげな紙で、きちんと打ち込まれた文字が書いてあった




｢……………。｣






最近の手紙文化ってどうなってるんだろう


恋文とかそういったものは無くなったのだろうか





なんでどいつもこいつも……





｢ただいまー｣





軽快な天月の声が聞こえた

私は急いでバラバラの紙をゴミ箱に戻す





｢何してたの？｣




帽子が溶けた雪でキラキラと光っていた
手にはケーキの箱だろうか

丁寧に持っている





｢ん？｣




私か黙ってるから不審に思ったのか、顔を右に傾けた
そんな姿が愛らしくて、今すぐにでも捕まえて私の手の届くところに置いておきたい


それが許される関係じゃないのが、どんなに悔やまれるか





｢天月……最近さ、悩み事とかないの…？｣



｢悩み？悩みかぁ……ブリーチのせいで髪が痛む｣




帽子を脱ぎながら、本気のような冗談を言って最後に笑った




………気持ち悪い。




｢Aはいいよなー。サラサラヘアー
絶対ブリーチして欲しくない｣




｢…なんかさ。もっとこー……違うじゃん、だって。
悩みってそういうんじゃなくて｣



ちぐはぐなこいつが気持ち悪い……




｢そんな事言われてもなぁー。悩みなんかないよ
元気やる気天月っ！｣


｢ふざけないでよ…っ！｣




私の声が何も無い部屋に反響した

家具が少ない故の音の反響
吸収する物がないから、やけに大きく鋭く私の耳に戻ってきた




やらかした……


と思った時には、天月が困った顔で笑ってるのが見えて、私は歯を食いしばった

■→←■

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す