婚約者を幸せにしたい。【まふまふ】

2 ページ2

.






私はこの辺では珍しい、黒い髪の毛をしている

お母さんは赤色で、お父さんは青色なのに私は黒だ



大抵はどちらかの遺伝だけれど、たまにこういうことも起きる
それに関してはあまり珍しいことでもない


でも“黒色”というのはかなり珍しいもので、今まで自分の他には見たことは無かった





｢よしっ｣





割れた鏡は歪んでいるけれど、身なりを確認することぐらいならできる

綺麗な鏡は高級品だから、庶民の私たちには手が出せない
お貴族様専用の品だ


それが当たり前だから、ただぼんやりと姿を反射させる破片でも何も文句はない。綺麗な額に入れられた銀の板を欲しいとも思ったことがない


去年壊れた手すりに捕まらないようにして階段を駆け下りる
下ではお母さんが夜の下ごしらえをしていた



｢じゃ、行ってくるね｣


｢ええ、じゃがいもと卵を忘れないでちょうだいね｣


｢はーい｣






うちの家は居酒屋さんなので、稼ぎ時は夕方だ

だからそれまでの日中は買い出しや食料の調達──狩りや収穫──をするのだ



この辺の子供はみんな親の仕事や生活を手伝っている
世の中には学校というものがあるらしいけど、もちろんそんなもの通える人はこの辺にはいない


王都の中央に住むお金持ち様だけの特権だ






自分がお金持ちだったらなーってことは考えたことぐらいはある

だって綺麗な服とか着てみたいもの


こんなツギハギだらけの中古品
可愛さなんてありゃしない。


着れればいい。使えればいい。


それが基準の私たちの生活にオシャレなんかあるはずがない






｢高いだろうな……｣





お店の窓から覗けるワンピース
ずっと可愛いなと思っていたものだ



そもそも新品なんて着たことないし、お門違いも休み休み言えって話だけど

いいな。と思うことぐらいなら私にも許されるだろう




あーやめだ、やめ！
どうせ買えたところで着る機会なんてないんだから

よっぽどあのワンピースのお金を明日の食費にあてた方が有意義というものだ
さ、早く朝市に行かないと安いものは売り切れちゃう

3→←Prolog

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す