#01 春風の中で ページ1
ゆるとした風が頬を撫でた。
客先から会社に戻る道、ふとその風が渡る感覚に促されるように前を向いた。
いや、顔はずっと前向きで歩いてたんだけど。
いつのまにか視線は足元の少し先しか見てなくて、地面だけを見ていたらしく、今顔を上げて視線を上げたことでちゃんと目の前に焦点が合った感覚になった。
穏やかな春の陽射しが空から降っている。
立ち止まって空を少し見上げる。
(いい天気だな。)
頭上の青空に対して差し色のように、視界の左側に鮮やかな黄色い花が目に映った。
大きく伸びた樹が塀の向こう側から枝を伸ばしていて、小さな黄色の花がいくつも咲いている。
何だっけ、この花の名前。えーっと、・・・・ミモザ？だっけ？
しばし立ち止まってその花を見つめていたら、花と塀の間からブルーグレーの目が覗いた。
猫だった。
白い短毛の猫は花の陰から姿を現し、塀の上で立ち止まってこちらを見てる。
オレも何となく猫の目を見つめる。
ふっと猫は動き出し、塀を少し歩くと飛び降りて道の反対側へと駆け出したその時。
(あっ！轢かれる！！)
二車線の反対車線のカーブの先からのトラックに猫が飛び出すカタチに。
咄嗟にオレも飛び出して、猫を抱え上げる。
パッパー！！！
クラクションがけたたましく鳴り響いて、トラックは通り過ぎて行った。
「・・・・・・あっぶね・・・・」
跳ね上がった動悸を息を吐くことで抑えながら、猫を歩道に下ろす。
地面に足を付けた猫は、覗き込むような顔をしてオレを見上げた。
「・・・・・おまえ、も少しで死ぬとこだったんだぞ？」
猫の頭を撫でて
「気をつけろよ？」
そう声をかけてオレはよいしょと立ち上がり、また会社への道を歩き始めた。
ちょっと人助けならぬ猫助けをしたことで、塞いだ気分が幾らかマシになった気がした。
・・・・・・さ、仕事に戻ろう。
*
*
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 146人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羊羽(プロフ) - たまりんさん» Sさんのとある部分にﾌｫｰｶｽしたくなって書いた話でした。私の中では一種のﾊｯﾋﾟｰｴﾝﾄﾞのつもりです。この歌、いいですよね。キレイ。楽しんでいただけたなら嬉しいです♪ (2020年3月15日 10時) (
レス) id: 9e1708fadb (このIDを非表示/違反報告)
羊羽(プロフ) - ebi信号さん» 私としてはSさんの想いは悲しいかなって思うけど、添い寝屋さんの方はそうでもないんだよね。むしろひとときでも傍で温めてあげることができて幸せっていうか。ﾐﾓｻﾞ、好き。 (2020年3月15日 9時) (レス) id: 9e1708fadb (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 切ないけど素敵なお話ありがとうございました。あー、この歌好きだったなぁと遠い昔を思い出しました笑。 (2020年3月10日 19時) (レス) id: 73cb3c7af7 (このIDを非表示/違反報告)
ebi信号(プロフ) - 懐かしい歌詞(言葉)が並んでちょっとしんみりしたよ。悲しい想いだけど、他に動けないんだもんね、せめて想う人が楽に幸せになればって最後の愛情かなぁって私は思うよ。想う人に想われるって本当に奇跡だよね。明日は3/8、ミモザ買おうかな… (2020年3月7日 14時) (レス) id: 5da3552e51 (このIDを非表示/違反報告)
羊羽(プロフ) - ebi信号さん» 私、相手が眠る前に寝ちゃうわ。きっと（笑）同じ空間に寝息立ててる人がいるだけで、つられて眠くなっちゃう。 (2020年2月24日 20時) (レス) id: 9e1708fadb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：羊羽
| 作成日時：2020年2月22日 9時
