唇に滲むブルー 【HQ!!】

You.10 ページ21

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「…」

「…」

黙ったまま電車に揺られる。
帰宅ラッシュも終わりかけの車内ではまばらに空席も目についたけど、座りなという一静の言葉に首を振り、2人して向かい合うように入り口に立っている。

「あのね、一静」

「……はァ、いや、わかってる」

すっと伸びてきた腕を見つめていると、普通より長めのそれが私の背中に回り、引き寄せるように動いた。
そのまま一静の方へ近づけば、間抜け面と笑われる。

「本当に徹とは何もないからね」

「わかってるよ。一緒に帰ってきた感じじゃなかったし。いや別に一緒に帰ってきたっていいんだけど、特に俺がいない日とか。危ないからね」

一静は無駄な勘違いや早とちりはしないタイプ。
だけどさっきの、ほぼ同時に駅に入ってくる私と徹を見たら、流石に不安にはなるよね。
私の声に顔を上げたら、目の前に私と、その後ろに徹がいたら勘ぐりたくもなるというもの。
私は振り返らなかったので徹の表情は見ていないけど、一静曰くとても驚いた顔をしていたそう。

一緒に帰ってきたっていい、なんて嘘ばっかり。
もし私から少しでも徹の匂いがしたら不安がるくせに。
でもそうやって無理しちゃうのは、一静なりの優しさなんだって分かってる。

「ねぇ…」

「うん？」

「…………や、なんでもない。今日の晩メシはハンバーグがいいなって思っただけ。欲を言うなら」

「チーズ入りのやつね、作ろうか？」

「嬉しいけど…これから作ってたら大変だし、帰り道のスーパーで買ってこ」

「はーい」

すっかり元通りの雰囲気で、電車を降りて改札を抜ける。
隣にはにこやかな一静がいる。落ち着く。
そういえば徹とはよく改札を抜けた後、自然と手を繋いでいたなあと思い出す。
ふざけて腕にぶら下がったり巻き付いたり、変な触り方をよくしてたっけ。

ちらり、と隣のこれまたがっしりとした腕を盗み見るけど、しっかりとポケットに突っ込まれたそれに絡むのは躊躇われた。
一静の方からも手を繋ごうと言われたこともない、されたこともない。
別に手なんか繋ごうが繋がまいが大したことじゃないんだけど。
でも…なんでか遠慮されているようにも感じる。
そしてようやく繋ごうと決心した時には、私側の一静の手にはスーパーのレジ袋が握られていた。
やっぱりなんだか、変。
一静はそういう気遣いができる人だから…わざと、その手にスーパーの袋を握ってるんだろうな。

ごめんね、一静。
いつもそうやって壁を作らせて、ごめん。

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