唇に滲むブルー 【HQ!!】

You.11 ページ23

.

聞いてはいけないものを、聞いてしまった。

久しぶりに体育館が賑わっていた今日。
園美さんが部活に顔を出したから。
浮き足立つ部員たちに苦笑してしまう。
まあ、こんなに綺麗なマネージャーがいれば、テンションも上がるというもの。
園美さんも楽しそうに笑っていて、どこか他人事のように、"素敵な部活だな"と思った。

部活が終わればせっせと後片付けをし、園美さんの「いつもありがとう。あとはやっておくから、今日はもう帰って大丈夫」の言葉で水場をあとにした。
ジャージから普段着に着替え、未だ片付けをしているであろう彼女に声をかけてから帰ろうと、体育館を再び訪れた、とき。

「園美さんのことが、好きです。」

緊張した声が耳に飛び込んできて、咄嗟に踏みとどまった。
中をちらりとでも覗く勇気はなくて、園美さんが押し黙ったまま返事をしないのをこれ幸いと、走って逃げた。
よかった、あのままあそこに居なくて。
もし返事を聞いてしまったら、私は平常心でなんかいられない。

バカだな、イエスがいいに決まってるじゃない。
徹がそう望んでいるんだから、それが一番に決まってる。
でもノーならいいって、そしたら徹はまた私のことを考えるんじゃないかって……


私は私を大切に生きていきたかった。
だからどっちつかずに扱われるのが嫌で、徹と別れた。
なのに結局、私は全然自分のことなんか大事にしてない。
一静まで巻き込んで、その罪悪感に押し潰されそうで、でも全部徹のためなんて言ってる、救いようのない馬鹿野郎だよ。
わかってるよ、わかってるけど、だって…

「徹のこと、愛してるんだもん」

口に出したらポロポロとこぼれ落ちるのが止まらなくて、つける薬がないってこのことだよなって笑えてきた。
乾いた笑いは大粒の涙に一瞬でかき消されて、そのあとは声も上げずに、地面に座り込んでひたすら泣いた。
そういえば、私がこうして徹を思って泣いてる時、一静がよくハンカチを貸してくれたっけ。
いつも困ったように笑って、私の泣き腫らした顔を見てた。
私、もし生まれ変わったら、一静と恋に落ちたい。
徹を思う人生なんて、もうこの一回きりで十分だから。

.

Toru.10→←Hajime.02

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す