PARACAGE 4th【ars】 (ページ18)

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123.フローラル。ページ18

例えば、ニノくんはすぐに引っ付いて来る。
ソファで私が雑誌を読んでたりすると、隣に腰掛け私の体半分を背凭れにして背中を預けてテレビを観てたりする。

智くんは相変わらずすぐに頭を撫でて来るし、翔さんは本人に自覚は無いらしいけどとにかく何をする時も距離が近い。

あの家の住人はどうやらパーソナルスペースって物がきっと無いんだ。
ほら、雅紀くんだって平気で女子の肩を抱いちゃうような人じゃないか。
これは『手繋ぎ』じゃなくって、私が立ち止まったから進ませる為に『手を引っ張った』ってゆー、それだけのコトだ。

もしこの相手が潤くんだったら、ちょっとビックリするけど。
あの家で彼だけはやっぱり、男性の通常の距離感を保ってくれてる気がする。

雅紀くんにとって手を繋ぐなんて、息をする位に自然なコトなんだよ。きっと。

...って、一生懸命考えてるのに胸の動悸が治まらない。
それどころか、手汗が気になって仕方無い。

「あの...」
「ん？」
「手汗が...」
「あ！ごめんごめん！」

雅紀くんがアハーって笑って手を離し、その掌を自分の着てるシャツでゴシゴシ拭いた。

「あっ、違う！私の手汗！」
「え？Aちゃんの？」

私も自分の服で拭こうとしたら雅紀くんに手首を掴まれて「えー？全然大丈夫じゃない？」って、掌をじーっと見られる。
やだやだやだ！絶対にジットリしてるってば！見ないでー！！

必死の抵抗を見せても雅紀くんは面白そうにニヤニヤして、手を離してくれない。

「別に手汗なんて良いじゃん！汗くらいかくよー人間なんだからー」
「でも...」
「女の子の汗はフローラルの香りだから平気」
「アハッ！何それ！」
「アハハ！自分でも何言ってんのかワケわかんない！」

二人で笑って、雅紀くんはまた私と手を繋いだ。

時々、すれ違う人が「あれ？」って顔をして雅紀くんを見る。
でもその度、彼は私をチラっと見て微笑む。
その顔は、咲くんじゃなくって私がよく見る雅紀くん。

ちょっと優越感を持ってしまってる自分をやだなって思って
でも、彼女では無いからこれ位の優越感は許して欲しいとも思う。

肉バルに着くと夕食時なのもあって、数組が並んでた。
最後尾に並んで、雅紀くんが「暇潰しに」ってスマホで動画を見せてくれた。

赤いイヤホンを片方貸してくれて、私に身長を合わせる為にちょっと腰を折ってくれて、前髪が触れる距離で小さな画面を覗いて

行列、もっと長くても良いなんて思った。