PARACAGE 4th【ars】 (ページ1)

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106.ごめんね。ページ1

何食べよう...って、雅紀くんの口元が動いたのが分かった。

まだ私には気付いてない。
耳にはイヤホン。赤いコードがジーンズの後ろポケットに繋がってる。

ソォっと近付き隣に立って、トントンと腕を軽く叩いたら彼はゆっくりとこっちを見た。

「あ...Aちゃん」

少しだけ、バツの悪そうな笑顔でイヤホンを外す。

「お仕事、だったんですか？」

確信が欲しくて、そんな質問をしてしまう自分がちょっと嫌だ。

「うん。撮影でちょっと髪切られちゃった」

そう言ってキャップを取った雅紀くんの髪は、今まで帽子かぶってたとは思えない位サラリと落ちる。
ほんの少しだけ短くなった髪とお仕事だった事実に、ドキっとして嬉しくて、感情が溢れ出しそうだったから唇を噛んだ。

「Aちゃんもご飯買いに来たの？」
「ご飯はご飯なんだけど、材料を買いに来たんです」
「作るんだ。手料理、良いなぁ」
「雅紀くんの分も作ろうか...？」
「やった！」

クシャって笑いながら、キャップを被り直してる。

「雅紀くん、何が食べたい？」
「何でも良いよ」
「んー...それが一番困る答え」
「アハッ！そうだよね！じゃあねぇ、じゃあ...鶏の照り焼き！」
「はい、承りました！」

まずは鶏肉を...と歩き出したら、雅紀くんが私の持ってたカゴを持ってくれた。
それだけの事で、心臓は少しずつ騒ぎ出す。

翔さんとバイクで行った大きなスーパーじゃなくて、ご近所にあるよく行くスーパー。
何がどこにあるか、もうちゃんと把握できてる。

精肉売り場で鶏もも肉を選んで、雅紀くんの持ってるカゴの中へ。
それから野菜売り場でレタス。
お菓子売り場の前を通りかかったら「ポテチ買って良い？」って雅紀くんが訊くから「一個だけなら」って言うと、彼はパーティーサイズの大きい袋のを選んで「一個は一個！」「ズルい！」なんて笑い合う。

「Aちゃん」
「ん？」
「ごめんね」
「え？大きいポテチ買ったから？皆で食べられるからそっちで良いと思いますよ！」

買い物を終えて帰り道を歩いてる時。
突然謝った雅紀くんに、私は何も考えずそう応えると彼はまたバツの悪そうな笑顔。

「昨日の事」
「...昨日の...」
「昨日だけじゃないか。...やな気分にさせちゃってたよね、ごめん」
「あ...ううん、大丈夫」

あ、また『大丈夫』って言っちゃった...って思ったけど、他に何て言えば良いか分かんなくて。

隣を歩く雅紀くんを見上げて

「大丈夫」

もう一度、呟いた。