PARACAGE 3rd【ars】 (ページ18)

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88.ヒラヒラ。ページ18

出来上がった洗濯物を持って、2階に上がる。
自分の部屋の隣にある小さなドアからベランダへ出る。

翔さんが用意してくれた物干し竿に洗濯物を干してから、そのまま桜色のドアを開けた。

何となく咲くん棚を開けてまだ雅紀くんと知り合う前の、あの一番好きな表情が入ってる写真立てを取り出す。

やっぱり、この表情が好き。
でもこれは、完全に『咲くん』なんだなぁ...と思う。
雅紀くんが演じた、咲くん。

写真立てを眺めたまんまベッドにゴロンと寝そべった。
この人と同じ屋根の下に暮らしてるなんて、今でも信じられない。
顔も名前も認識されて普通に喋る関係になってるだなんて、信じられない。

この人に、こんなに.....恋してしまってるだなんて、信じられない。

雨音に気付いたのは、何時間後だったんだろう。

知らない間に眠ってしまってた私は、慌てて起き上がった。

「雨っ！？」

ベッドから飛び降りて窓に駆け寄ると、外は雨模様。
鼠色の空からどんどん雨が落ちて来ている。

「...洗濯物っ！」

急いでベランダに移動して洗濯物を取り込みながら、ハッと思い出して上から庭を見下ろした。

「あぁっ！」

案の定、庭に干してあった洗濯物が雨の中ハタハタと風にはためいてる。
私は自分の洗濯物を部屋にポイッと放り込んで、1階に駆け下りた。

晴れた日は大きな窓から射し込む陽で明るいリビングも、今は薄暗い。

縁側からサンダルを引っ掛けて庭に出て、智くんの洗濯物だと思い込んでたそれを取り込む。
だけど、1枚のシャツに手を掛けた時に智くんの物じゃない事に気付いた。

「...あっ...」

赤い花の刺繍が入った、白いシャツ。

思わず、手を離してしまう。
目も、逸らしてしまう。

他の洗濯物を先に取り込もう...と視線を動かす。

ウェスト部分にブランド名が入ってるボクサーパンツと、ファストファッションメーカーのボクサーパンツ。
勝負パンツと普段使いとか言うの？なんて思って、勝手に落ち込む。

それをパチン、パチン、とステンレスの洗濯物バサミから外して先に他のTシャツなんかと一緒にリビングのソファの上に置いた。

そこから庭に残ってる、あのシャツを眺める。

早く取り込まなきゃ、洗い直さなきゃいけない位に濡れてしまうのに...。
ヒラヒラ、シャツが揺れる。

フゥ...とひとつ、溜息を吐き出して私はもう一度庭に出てシャツをハンガーから外した。

何だか分からないけど急にカァッとなった頭を、雨が冷やして行く。