PARACAGE 3rd【ars】 (ページ17)

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87.背後。ページ17

雅紀くんは部屋に出掛ける準備の為に部屋に戻って、私はリビングでそこに置いてあったタウン誌をパラパラ捲る。

「お？新オープンかぁ...」

うちのお店からそんなに離れてない場所に肉バルが出来るらしい。
私もアカリもお肉大好きだし、オープンしたら行ってみよう。

お洒落な内装と美味しそうなステーキの写真を見ながらそんな事を考えてると、雅紀くんがリビングに戻って来た。

ダメージジーンズに前も着てたMA-1とキャップ。
それと、あの黒縁眼鏡。

「何読んでんのー？」

私の真後ろから背凭れに両腕を乗せて、背後から私の手元を覗き込んでくる。
一瞬で身体が強ばった。
なのに、心臓だけは信じられない位に早打ちしてる。

「あ、美味しそ。何？バル？」
「...そーみたいです、肉バル」
「へぇ！もうすぐオープンするの？」
「うん」

いつ？って、雑誌の文字を読もうとした雅紀くんの身体が更に近付く。

「一緒に行こっか」
「...え？」
「ここ、オープンしたら一緒に行こ？」
「.....誰と？」
「えっ！？俺とだよ！」

アハハ！って笑った雅紀くんを横目で見たら、「俺とAちゃんがでしょ」って、ちょっと意地悪な顔された。
眼鏡越しの目が、綺麗な半月型。

「あー...そろそろお仕事行かなきゃ」

雅紀くんは、そう言って腰から折ってた上半身を起こした。

「行ってきます」ってリビングを出て行った雅紀くんの背中を追って、私も玄関までついて行く。
そんな私に彼は「お見送りしてくれんの？」って微笑んだ。

うぅぅ...やっぱり格好良い...。
悲しくなる程に格好良い...。
格好良いしか言葉が出て来ない。格好良い。

スニーカーを履いて、雅紀くんが扉を開ける。

「...雅紀くん！」
「なぁに？」
「今日は、帰って来る...？」

少しだけ驚いたような表情を見せた彼だけど、すぐに目尻に皺を寄せた。

「予定通り撮影が終われば帰って来るよ」

わかりやすく、安心してしまう。
嬉しくなってしまう。

「じゃあね」

手を振る雅紀くんに、私も小さく手を振って

閉まった扉を、余韻と共に暫く見詰めた。

絶望的なはずなのに。
駄目だ駄目だと、そう思ってるのに。

気持ちってゆーのは、自分の物であっても簡単には操れないもんだな...と痛感する。

期待なんかするな！って言い聞かせてるのに、私は小さく小さく期待する。
雅紀くんの一言、仕草に、胸を縮ませる。

玄関で立ち尽くしてる私に、ピーピーと洗濯機が洗濯終了を知らせた。